かいだん

最近、気を失うように寝入ってしまうので、夢か現実か、だんだんわからなくなってきている。

二階にいると電話がなった。階段を駆け降りて、受話器を取るとおじさんの声がする。おじいさんかもしれない。とにかく若くない男性の声だ。こちらがもしもし?と言っているのに、その人は一方的に話し続ける。いたずら電話だと思った。しかし、言葉は断片的で、意味は不明だ。

もしもし? え? なんですか? よく聞こえないんですけど?
何かを伝えたいのか、かなり熱心に語りかけてくるが意味がわからない。なんだろうか、と思った瞬間、「息ができない」という言葉だけが聞き取れた。そのあともまた切れぎれの言葉で、全く意味がわからない。気味が悪くなって、はーい、もう切りますね!さようなら!そう言って受話器を置こうとした。

しかし、電話機の本体はひっくり返っていて、どこにあるのかすぐには見つからない。いつにも増して家の中は散らかり放題だ。なぜか衣類や本が散乱している。わたしは真っ暗な台所に立ち、考えていた。誰かが荒らしたのだろうか。

その時、呻くような声がした。凄みのある男性の声だ。わたしの足元がぐらぐらする。そこは、床下収納の蓋の上だった。ここは食品庫として使っていて、中にはインスタントラーメンや小麦粉、マヨネーズの買い置きなどが入っているはずなのに、中から声がする。それも一人じゃない。男性が二人いるようだ。蓋を持ち上げようとしているのか、わたしの足元がわずかだが何度も浮き上がる。床下にどうやって入ったのだろう。怖い。

ダメだ。この蓋が開いてしまったら、わたしはどうなるかわからない。命の危険を感じて、わたしはその蓋の端っこをギュッと踏みしめる。中から聞いたこともない言語の会話が聞こえてくる。それは言語ではないかもしれないが、「くっそう、蓋があかないじゃないか」と言っているみたいだ。わたしは負けるもんかと踏みしめる。ドン、ドン、ドン、と突き上げられるような衝撃を感じながら、それでも蓋が持ち上がらないように全体重をかける。そして、オットを呼ぼうとした。

声が出ない。「はあー、うおー、あー、いー」と息は出るがはっきりと発音できない。怖いし、声は出ないし、誰か助けて。おとうさーん!と心の中で叫んだ。ん?2階で寝ているのはお父さんじゃない。オットじゃないか。しかし、反応はない。まずい。このままだと押し上げられてしまう。見たくない。どんな怖い人が出てくるのかわからないのだ。足元に衝撃を感じながら、体の平衡を保とうと必死で踏みしめた。

ガタン、ガタン、ギギギ、と家具がずれるような音がして、目が覚めた。心臓がバクバクいっていて、家の中はシーンと静まり返っている。しかし、さっきの大きな音は、ダイニングテーブルや椅子が動いた音ではないのか。

そういえば、夜、窓を閉めずに寝たかもしれない。泥棒が入り込んで家の中を物色しているのかもしれない。そうじゃなくても、窓が開いたままなら締めなくてはならない。わたしは階段を降りた。廊下とリビングを仕切るドアは開けっぱなしになっていた。そっと覗いてみると、中には誰もいないし、部屋はいつもの様子だった。確かめると窓も閉まっていた。午前2時半。

あの大きな音はなんだったんだろうか。数日前も、夜中に階段を何度か上り下りする足音で目が覚めた。バタン、とトイレのドアが閉まる音も聞こえた。

翌朝オットに尋ねた。「昨夜、夜中にトイレに起きた?」オットの答えは「いや、行ってない」だった。ムスメは一旦眠ったら、誰かが起こすまで絶対に起きない。家族以外の誰かが、夜中に家の中を歩き回っているのだろうか。

サポートいただけたら、次の記事のネタ探しに使わせていただきます。