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TRAP

ハニートラップ。思いついたのは、友人のことである。

外国に住む友人が何人かいるのだが、その中の一人が帰国した時に「買い物に付き合って」と言って来た。普段はデパートになど行く用もないので、面白がってついて行った。「何を買うの?」と聞いたら「ネグリジェ」と言う。

ネグリジェとは、あのネグリジェか。寝るときはパジャマかジャージのわたしは、ネグリジェと聞いただけで吹き出しそうになったのだが、彼女は真剣に品定めをしている。

話はこうだ。海外ではシェアハウスは一般的で、彼女も数ヶ月前からシェアハウスに住んでいる。その家の若いオーナーも同じ家に住み、わたしの友人は彼に恋をしてしまった。オーナーには恋人がいることは知ってはいるが、そこは奪い取ってでも恋を成就したい、というのが彼女の本音らしい。そのためには、ちょっとセクシーなネグリジェでも着て、夜中にキッチンあたりにいるところをオーナーに目撃されるところから始めようかという作戦だ。よく聞けば、そのオーナーと恋人とは最近うまくいっていないらしく、別れるか別れないかの瀬戸際で、だからこそ今が勝負どきなのだ。

わたしはその話を聞いて「ほほう」と頷いたが、そのアプローチで人の気持ちが掴めるのかは疑問に思った。ただ、彼女がそこまで積極的な作戦に出るような人とは思っていなかったので、それならばうまくいってほしい、と思った。

それから半年後くらいに「彼がわたしの恋人になった」というメールをもらった。果たしてネグリジェ作戦が功を奏したのかどうかは知らない。あれから10年くらい経つが、今も二人は仲睦まじく暮らしている。彼女は彼の運命の人だったのだと考えると、別にネグリジェ作戦でなくても良かったんじゃないかとも思う。

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