おすまい
オットの母の容体が良くない。だからこれを書くのは不謹慎かもしれない。昨日、回復の見込みなし、の連絡が来た。覚悟しておけ、という意味だ。
そのことをわたしに告げるオットは、絶望の色を見せ、「もしかしたら、もう来週までもつかどうかわからない」と言った。わたしも動揺し、何をどうしていいのかわからない。オットはそれだけ言うと、そのまま二階に上がって行った。わたしと暗い気持ちで向き合っていても、お母さんがよくなるわけでもないと思ったのだろうか。
しかし、すぐにまた降りてきて、今度は外に出て行った。やっぱり心が落ち着いかないのだろう。わたしはそう思いながら、夕食の準備に取り掛かった。
10分くらいして、オットが戻ってきた。そして台所に立つわたしに神妙な顔をして言う。「ここ2〜3日前から、どこからともなく夜中に部屋でコトコト、カタカタ音がするんだ」それは、超常現象ということだろうか。お母さんのことで虫の知らせ、とか?深刻な顔だ。わたしは「うん」とうなずくしかなかった。
「今、外に見に行ったら、エアコンの室外機のホースをいれる穴のところから、コウモリが出て行った」え?「あれはコウモリだと思うんだよ」
オットの部屋にはエアコンがない。室外機のホースを入れる穴は、プラスチックの蓋のようなものが、内側からパコンとはめてある。外壁のほうは、僅かながらくぼみができているはずだ。その隙間にコウモリが住んでいるというのか。
わかった。わたしが内側から叩いてみるから、あなたは外で見ておいて。そう言って、わたしは二階のオットの部屋へ上がった。内側からトントン、と叩いてみた。窓を開けて下にいるオットに聞く。どう?オットは黙って家に戻ってきた。
「2匹出て行った」本当に?
オットは二階に上がり、また降りてきた。「蓋を外してみたら、フンがあったから、天気の良い日に掃除する。とりあえず、除菌スプレーをしてきた」
お母さんのことですっかり気分が滅入っていたが、ちょっと笑顔が出た。それでわたしもホッとした。人生、何かつらいこと、悲しいことがあっても、生きていかねばならぬのだ。
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