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びじゅつ

フリースクールの生徒を連れて市の美術館に行ってきた。なんと、中学3年生、この街に15年も住んでいて、市の美術館に行くのは初めてなんだそうだ。じゃあ楽しまなくちゃね。

学芸員の方が常設展を案内してくれた。収蔵している16,000点の作品の中から、2ヶ月おきくらいに展示は入れ替える。大きな部屋の大きな作品は年に1度らしいが。

わたしは特別展示を見ることはあっても、常設展を見るのは初めてだ。中学生と同じ感じで、半分ワクワク、半分こわごわ、足を踏み入れた。

最初の部屋に入ってびっくりした。シャガール、ダリ、バスキア、藤田嗣治など、教科書に載っている作品が目の前にある。ひいいい。しかも、触ろうと思えば触れるくらいの距離で見ることができる。すげー。

これを200円で観ていいの??と思いながら進む。知らないアーティストの作品が次々に現れる。今まで知らなかったけれど、面白いこと考えるひとがいるもんだなあ、とか、どうしたらこんな美しいものを作り出せるのだろうか、とか、そんなことを考えながら進む。

ああ、あった。わたしの好きな「虚なる母」。

虚なる母

この作品の何がすごいって、正面から中を覗き込んだらそこは狭いはずなのに無限の奥行きが感じられること。光までも吸収してしまうブラックホールのように、ただ蒼くそこにある。微妙に温かい空気があるようにも感じる。

作品の解説や作者のプロフィールなどは読まずに、作品だけをみて回る。これが好きだなあ、とか、この絵はなんでこんなに悲しいんだろう、とか。感想とも言えないような感想を抱きながら、だだっ広くて静かな空間を歩く。

古美術の部屋の展示も、いろいろ驚いた。仏像も収蔵しているとは知らなんだ。夏休みの子ども向けの展示では、こぶうしくんというキャラクターが色々と解説をしてくれる。

こぶうし


すごく興味を惹かれた展示があった。木製の像だが、腕が破損していて右手首から先がない。首から胸にかけて、継ぎはぎしたようなあとがある。こぶうしくんの解説に「この像は、継ぎ接ぎの跡があるから、もしかしたら全く違う像を組み合わせて作られているかもしれないんだ。もっと詳しく調べてみるね」と書いてあった。わー。博物館みたい。て言うか、美術館も調査の役割を持っているのだな、と思った。めちゃ面白そう。こういう仕事に就いてみたかった。何か新しい「発見」があったり、納得のいく「答え」が見つかったり。研究職というのは、特殊な世界だと思うけれど、その探究心が燃え続ける限り、真実に近づいていける。

最後に今月初旬に設置された屋外彫刻を見た。でかい。そしてその表面に描かれている模様がカラフルで印象的だ。これは「アフリカンプリント」を模したものだそうだが、実はアフリカンプリントは、アフリカが原産ではないらしい。ヨーロッパから「アフリカらしさ」をモチーフに描かれた布が輸入されていたらしい。それはアジアにも広まり、日本もアフリカンプリントを作っていた時代があった。現物の展示も見た。布に「KABUKI」というタグがあった。ブランド名らしい。

レクチャールームに戻って、学芸員さんが中学生に質問していた。ワークシートには「あかるい」「かなしい」「うれしい」と感じる作品を一つずつ選んで、その理由を書いてみよう、というテーマがあった。中学生に「どうしてそう思ったの?」と訊いていた。中学生が理由を答えると、「うんうん、すごいね、そんなところまで見ているの?また展示室に戻って、一緒に絵を見ながらお話ししたい!」と目を輝かせていた。ああそうだ。好きなもの、興味のあるものを語り合う時、人はこういう顔になるのだ。

美術館が身近な存在になった。また観にいこう。

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