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年末状

不定期にお便りをくださる先輩がいる。わたしが広告の会社で働いていた頃の仕事仲間であり、業界の大先輩でもある。わたしが出産を機に家にいると知った頃から、年に2〜3枚のハガキを送ってくださる。それは、町歩きをしながら撮った写真をそのままハガキに仕立てたもの。おそらく自宅のプリンターで作っているのだと思う。風景がほとんどだが、ムスメが小さい頃は動物園のキリンの写真なんかも送ってくださった。お酒と本が大好きで、自宅にいる時は、午後4時がマティーニ解禁の時間らしい。先輩の作るマティーニを飲んだことのある人たちが「ホントにうまいんだよなー」と絶賛するので、一度ご相伴にあずかりたいと思っているが実現はしていない。

先輩は趣味と仕事を兼ねて、ロケハンがてら町歩きをする。まるで観光客のように、愛用の一眼レフを首から下げ、ぶらぶらと気ままに歩いている様子を、たまにバスの車窓から目撃する。

ハガキには、近況めいたことはざっくりと書いてあるが、漠然としていて掴みにくい。しかし、それ以上の行数を占めるのは、わたしへの気遣いだ。子育てのこと、仕事のことなどがサラリと書いてあるが、行間ににじむのは、明確な励ましである。ありがたい。毎回、じんわりと心が温まり、感謝する。それなのに、筆不精のわたしはお返事を書いたことがない。年に一度、年賀状を出すだけだ。その年賀状でさえ、今年は出さなかった。雑事に疲れ果ててパスしてしまったのだ。それなのに、今年も2通のハガキが届いた。

毎年、年末に「良いお年を」というハガキをくださる。わたしはそれを年末状と呼んでいるのだが、年の瀬の慌ただしい中に、「おーい元気か?来年もがんばれよ」と声をかけてくださるように思う。そのハガキをもらうと、年始のテンプレート化した挨拶よりも、もっと気楽だけれど、背筋がシュッと伸びる。

広々とした空の写真。真っ青ではく、さまざまな形の雲が集まっている。それはまあ、わたしの深読みだけれども、「いろいろあって、清々しい日だけではなかろうが、お互い元気でやろうな」と言ってくれているように感じた。先輩も、良いお年をお迎えください。


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