見出し画像

scurry

インクトーバー2022  2日目 お題は「ちょこちょこと走る」

朝、シャワーを浴びていたら、浴槽の水面を魚のような動きで移動するものがあった。え?魚が?なぜ風呂に?と色々な疑問を抱きつつ、メガネをかけてよくみたら小さなトカゲだった。

水の中ではツーイツーイといった感じで滑らかに進んでいる。しかしどうだ。ここは浴槽。この中に居続けることはできないし、今この時でさえ、溺死と隣り合わせである。とはいえ、わたしも裸だし、このまま外に出してやるわけにもいかない。マッハのスピード(自己申告)で石鹸の泡を流し、体を拭いて服を着た。

風呂場から出て、ムスメに「お風呂にトカゲがいる」と言ったら「えええ?じゃあ、後でわたしがなんとかするよ」と答えた。いや、後だったら、確実に死んでしまう。浴槽の水の中にいるのだ、と説明をしたら「それはいかん」とムスメも立ち上がった。「どうしたらいいと思う?」「洗面器で掬ってやればいいんじゃない?」という会話を経て、おまちかね、トカゲくんのところへ。もう動いていない。ダメだったかー。

わたしは手桶をとって、水の表面を薄く掬った。するとわずかに手足をバタバタと動かしている。お。これは間に合うかも。

そのまま掃き出し窓まで突進し、手桶をひっくり返した。バシャ。水と共に小さなトカゲが地面に落ちた。そしてちょこちょこと走り出し、草の中に消えていった。

オットが起きてきたので、「お風呂場の、湯船の中にトカゲがいた」と言ったら、「え〜?俺はゆうべ、トカゲと一緒に風呂に入った記憶はないが」と答える。わたしがしらっとした態度でいたら「窓が開いてて、そこから入ったんだろう」と言い直す。「あの窓は、網戸だよ」じゃあ、換気扇から来たんじゃないの?進入経路はいくつもあるだろう、と探偵気取りである。

「まあ、気の毒に、風呂場で死ぬとはね」とオットが締め括ったので、「いや、生きたまま逃した」と今度はわたしがドヤ顔である。オットはふふんと鼻で笑い、「おかげで命が助かりました、ってお礼に来るかもよ。これ、お礼のしっぽです、とか言って持って来るんじゃないの?」と「いらん。いらんわ」「財布になって来るかもしれん」「いらんわー」てなところで、会話は終了。

サポートいただけたら、次の記事のネタ探しに使わせていただきます。