見出し画像

とびたつ

午前5時38分。わたしは飛び起きた。寝坊してしまった。ムスメの修学旅行の集合時間は7時。わが家から空港まで地下鉄の乗り継ぎを考えると、6時には家を出て、6時15分発の地下鉄に乗らなければならない。逆に考えると家を出てから45分後に空港にいるということは、かなり便利なところに住んでいるということか。

ムスメは朝の支度に1時間かかる。それを20分に短縮しなければならない。ムスメを叩き起こし、シャワーを浴びている時間なんてないよと言い聞かせ、朝食も無理だからとパンを鞄に押し込み、とにかく急げと捲し立てた。

一方ムスメはルーティンとして、トイレに行ったら風呂場で足を洗う。いつもはシャワーを浴びるのだが、流石に今日はそれはないだろう、と思っていたら、シャーとお湯の出る音がする。「ウソだろ」とお風呂場のドア越しに、「10分後には靴を履いて玄関を出るんだよ」と声をかける。「はーい」と能天気な声がする。わたしのイライラはMAXである。間に合わなかったらどうするんだ。

「あと5分しかないよ!」と声をかけたら「はーい」とまた声が返ってきて、わたしの胃がギリギリと痛み出した。下着を着る、背中にカイロを貼る、制服のシャツを着る、スラックスを履く、靴下を履く、ベストを着る、ジャケットを着る、コートを着る、マフラーをまく、手袋をつける…時間はどんどんなくなっていく。

6時の時報が鳴った。暗澹たる気分である。やっぱり間に合わないか、と心が折れそうになる。「メガネをかけてないじゃないの!」とわたしが言うと、「あっ、そうか」とバッグからメガネケースを出す。慌てているのでファスナーが開かない。こういうのって映画で見たことあるなあ。敵に追われて、とか、大波に飲まれそうになって、とか、そういう危機的状態にあるときに何かが木に引っかかって逃げられないとか、誰かを助けようとして一緒に巻き込まれるとか、そういう場面を彷彿とさせる。やっとファスナーを開けてメガネをかけるまで5秒もかかっていないと思うが、じれったさMAXであった。メガネをかけて「よし、視界良好!」とか言った直後に「あっ。ハンカチ入れてなかった!」。おい〜。

ハンカチを持たせ、カイロをポケットに押し込み、「ダッシュで行け。地下鉄に間に合わないぞ。」と押し出して、ようやく出かけた。

そろそろ駅に着いただろうかと思った頃LINEが来た。「ネクタイ!!どこ?」膝から力が抜けた。出かける直前に「リュックのポケットに入れたよ」と言って、「分かった」と言ったじゃないか。

そんなこんなだが、どうにか空港に着き、集合時間に間に合った。寒波の影響で、飛行機の出発は1時間程度遅れたそうだが、無事に飛び立つことができた。よかった。楽しんでおいでよ。

と、思ったが、問題はまだ、続くのである。

サポートいただけたら、次の記事のネタ探しに使わせていただきます。