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すけすけ

わたしが小学生くらいの頃、夏になると母世代の人たちは、たいてい涼しそうなワンピースを着ていた。それをムームーと呼ぶ人もいたし、アッパッパーと呼ぶ人もいた。サッカー生地のようなサラリとした木綿の服で、たいていはノースリーブだった。

母くらいの年齢からおばあさんまで、夏のワンマイルウエアとして浸透していたようだ。あれはなんだったんだろうか、と思い立って調べたら、なんとムームーは「ハワイの女性の正装」だそうで、アッパッパーの方は「簡易服、清涼服」と呼ばれるカジュアルウエアだった。ちなみにアッパッパーの語源は、裾がパッと広がるという意味合いの大阪弁に由来するらしい。

ムームーとアッパッパーは、子どものわたしには見分けがつかなかった。どう違うんだ?と謎だった。そして、もう一つ、ネグリジェという似たような衣服があった。ネグリジェはもちろん、寝巻きであるが、形状はムームーやアッパッパーとそんなには変わらないように思えた。

夏休みの朝はラジオ体操から始まる。うちは両親が夜型で、朝はカラキシだ。当然、わたしも夜更かしが得意で、朝の弱い子だった。だからラジオ体操の歌が聞こえてきても、まぶたを閉じたままだったし、ほとんどの朝は歌にさえ気づかなかった。

ところがある朝、早起きをした。なぜだか目が覚めたのだ。わたしはラジオ体操の行われている広場に行ってみた。子どもたちが集まっている傍で、お母さんたちも集まって、何やら雑談していた。全員がムームーやアッパッパー、そしてネグリジェのような格好である。

ラジオ体操の歌、そしてラジオ体操第一が始まった。ちょうど射し込んできた朝日が眩しい。

わたしは目撃した。眩しい朝日に照らされて、おばさんたちの衣服が透けている。ムームーやアッパッパーの人はなんともなかったが、ネグリジェの人は透けている。木綿と化繊の違いだろうか。ネグリジェのおばさんの一人は、あろうことか、ブラジャーも付けずにパンツ一丁だった。ほとんど裸。丸見えなのだ。子ども心にも見ては失礼だと思って視線を逸らした。しかし、本人もその周囲の人たちも気付かないのか、談笑は続いていた。ラジオ体操が終わって、わたしはそそくさと家に帰りながら、一生ネグリジェは着ない、と心に誓った。

酷暑のこの夏、ムームーやアッパッパーは涼しそうで良さそうだなあ、と思い出したが、どこに売っているのかもわかない。ところがこの長雨のせいで、今朝は寒いくらいだった。来年の夏には試してみるか…。

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