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つうこん

夢を見ていた。夢の中でわたしは教師だった。授業計画もちゃんと立てていて、その日は国語の授業をやることになっていた。教室にはいつもの生徒たちと、見学に来ている親子がいた。

物語を読んでしばらくの間フリーディスカッション、という時間を設定した。そして、その後で、わたしが朗読をすることにしていた。

生徒たちが意見を出し合っている中で、授業と全く関係のない話をしている声がする。大人だ。声の方に目をやると、見学に来ている男性の保護者が世間話をしているようだ。それを聞いているのは見学者を案内している男性教師で、和やかに談笑している。笑い声が大きいな、と思う。少し静かにしてくれないだろうか、と考えていた。

朗読の時間になった。わたしは読むべきページを開き、教卓に立った。生徒たちはそれぞれ好きな場所にグループで座っていて、意見をまとめている。「はい、手をとめて、そのままの場所でいいから、わたしが読むのを聞いてください」
黙ってください、と言わなかったのがいけないのか、生徒たちは手をとめてはいるが、口は動いている。ザワザワした教室でわたしは朗読を始められない。

みなさん静かに!と言うべきか、と迷う。人を黙らせるのに「黙って」と言うのはダサいし高圧的になりがちだ。こんな時、どうしたらいいのか。ひときわ大きくガハガハ笑う声がする。さっきの保護者だ。半袖の白っぽいポロシャツにベージュのチノパン、短いグレーの髪。50代くらいだろう。本当に楽しそうにニコニコしていて、おしゃべりが止まらない。黙れ。静かにしろ。と、言いそうになった。

生徒のざわざわも、その保護者の話も止まらない。授業が予定通りに進まない。やっぱり言わなければ。「はい、お静かに!」

そう叫んだところで目が覚めた。部屋はシーンとしている。そしてあろうことか、空がすごく明るい。

スマホをタップするが全く反応しない。しまった。電源が落ちている。起きろとムスメを揺り動かし、ムスメのスマホを見て愕然。7時である。朝課外は7時半から。学校まで自転車で30分。ムスメはいつも朝の支度に1時間かかる。痛恨のミスだ。

あのうるさい話し声は、6時に設定された、ムスメのスマホのアラーム音だったのだろう。

結局、ムスメは朝課外を欠席するしかない。わたしは学校に連絡をしなければ。「すみません、目覚ましの電源が切れてて家族で寝坊しました」先生は「ああ、そうですか、わかりました」と淡々と言った。わたしは、すみませんすみません、と言って、電話を切った。

バタバタと支度をしてムスメを送り出す。しかしなぜか気持ちが明るく、頭もシャッキリとしている。ムスメに「なんだか今日は調子いい」と言ったら、「やっぱり人間は7時間以上寝た方がいいんだよ」と言った。そうか。

思い出してみると、あのおしゃべりな保護者はわたしの父に似ていた。
娘と孫に「起きろ」と言いたかったのかもしれない。


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