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ROOF

inktober2021 13日目のお題は「ROOF」。

屋根で連想するのは、いつも赤い屋根の上に寝そべっているあの犬である。なんであの犬は、犬小屋の中ではなくて屋根に寝ているのだろうか。しかも、あの三角柱の一番尖ったところに寝そべるなんて、器用だなと思っていた。あの上に座って、タイプライターで手紙を打っている場面もよく見た気がする。痛くないんかなーと子どもゴコロに気の毒がっていた。

部屋があるのにわざわざ屋根で寝るのは、ちょっと変わったヤツだなと思うけれど、誰にも「ああいうことをやってみたい」気持ちはあるんじゃなかろうか。逆に、やりたいわけではないが、やらざるを得ない場合もあるだろう。

最近、いつも通りかかる公園を寝ぐらにしているおじさんがいる。その公園は高架下なので雨が降っても濡れないし、大通りから一本住宅街に入ったところにあるので、割と静かだ。街灯もあって、夜でもほの明るい。夕方くらいに通りかかると、おじさんはあの犬が屋根の上でそうしているように、寝そべって本を読んでいるか、本当に寝ている。そこで寝そべって本を読む姿はむしろ優雅にさえ見える。まだ寒くはないので、佇まいにも余裕を感じる。まるで、そうしたいからしているように見えるのだ。

いつだったか、若い男性がバインダーを片手におじさんと話しているのを見た。彼の質問に対して、おじさんはテキパキと答え、彼はバインダーに何かを書き込んでいた。あれはお役所の人か、それとも保護団体の人なのか。

彼が現れてから数日後、おじさんが所持していたであろう段ボール箱とリュックが消えていた。どこか安心できるところに移動したのだろうか。冬になる前に屋根のあるところに居場所が構えられたのなら良かったなと思った。

しかし、さらに数日後、おじさんはまたそこで寝ていた。荷物こそ軽装になっていたが、当たり前のようにそこで横になり、本を読んでいる。誰からの援助もいらないよという感じで、そこにいる。

どこかに保護されたが、自分がそうしたいからここに戻ってきたのか、一時的に排除されていたが、ほとぼりが覚めたので居心地がいい場所に戻ってきたのか。残念ながら、誰しもがあの犬のように寝たい場所で寝ていられる世の中ではない。あれが屋根なら建物の中に入ればいいのだが、おじさんは地面に寝ている。凍えるほど寒い日に、おじさんはどこに行ったらいいのだろうか。

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