ゆめだよ

わたしは、これまで行ったことがないであろう場所にいる。なんだか、黄色がかった、レトロな色彩の夢だった。

どこかの宿だと思うが、大きなベッドがあって、そこにお母さんが寝そべっていた。「あら、お母さん」と声をかけたら、「ああ、なんかね、風邪引いたような感じ。スカート履いて寝ることはないけね。足がスースーして風邪ひいたんじゃなかろうか」そう言った。お母さんは鮮やかな水色のTシャツを着て、パジャマかジャージかわからないが、灰色のズボンを履いていた。

「もう、寒くない?」と聞いたら「うん。わたしはここでおとなしく寝ておかんと、お医者さんに怒られるけね。買い物に行くなら行っといで」と言う。部屋の中には白衣を着た男性が立っていた。彼が主治医なのだろう。

ムスメがお菓子を食べたいと言うので、わたしはグミをジュースに浸して置いていたものを取り出した。数倍に膨れて柔らかくなっている。それを皿に移そうとしているのだが、Sの形のグミだけが、容器から離れない。赤と白の2色のグミで、どんな味がするのだろうかと思ってわたしはそれを剥がす。ねっとりとした感触だった。

オットとわたしは一緒に出掛けた。公園のようなところがあって、子どもたちが遊んでいた。桜の木が何本もあって、花が咲いていた。空が真っ青で、ピンク色の花が映えていた。「きれいね」と言ったら、オットが「行くぞ」と手を差し出した。わたしがその手を取ると、ぐい、と引っ張るのだが、手が濡れていたのか、滑って離れてしまった。あ、と思った次の瞬間、オットがわたしの腕を掴んで、危ないぞ、と引っ張った。そして手を離し、駐車場へと急いだ。駐車場には、キッチンカーと、バンと、乗用車が並んだ一角があって、そこだけ地面や壁、そして車にも果物の絵がペイントしてあった。アメリカの50年代くらいのイラストだ。どこかのお店のものかな、と思った。

オットの車は駐車場の一番端っこにあり、今まで乗ったことのない、小さい車だった。赤っぽい色と、クリーム色のツートンカラーで、車のフォルムもレトロな感じ。やっぱり50年代のアメリカのイメージだ。

よく見ると、後ろのドアが開いたままだ。これは車上荒らしだろう。オットが「あっ」と言って駆け寄った。彼のジャケットの背中から、1匹のクモがぶら下がっているのが見えた。まずい、と思った次の瞬間。オットが車に手を伸ばすと、クモの糸が絡まって、クモまで車のドアの淵に持っていかれた。そして、オットの手に挟まれて、潰れてしまった。オットはそのことに気づかない。「どうしてくれるんだよ。まったく」と怒っている。盗られたものはないか、と考えているようだが、わたしにはさっぱり見当もつかない。

雨上がりのようで、地面は濡れていて、風が冷たかった。太陽の光が明るく景色を照らしていた。草木の濡れた匂いがした。

お母さんは旅立つ時には着物を着せられていた。大きなドライアイスを抱かされていたし、体は冷え切って、足元もスースーしたんじゃなかろうかと思う。義理の姉とわたしが選んで棺に入れたズボンが役に立ったのかなあと思った。あったかくしてね。

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