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ぼうそう

また夢を見た。

いや、今回は父は出てこない。ただ、父が亡くなったことで、お悔やみを言いに来てくれた友だちがいた。わたしはなぜか小さな男の子と暮らしているのだが、その家は今まで住んだことも見たこともないところだった。

大きな部屋が三つ。がらんと殺風景で、脱ぎ散らかした服や、ソファの上に雪崩れている雑誌以外は、ほとんど荷物がない。

インターホンが鳴って、誰かが来た。玄関を開けると、かずえちゃんが立っていた。パリに住んでいるのに、わざわざ?と聞いたら、「お父さんが亡くなったって聞いてね。上がっていい?」と言いながら、もう靴を脱ぎ始めていた。わー、散らかっているんだよー、と思っていたら、「みんなも来てるから」と、ドアを大きく開けた。みかちゃん、のんちゃん、つるちゃんが続いて入ってきた。

椅子やテーブルはなく、板張りの床にちゃぶ台を置いて、お茶を飲もうと用意を始めたら、「いいのよ。顔が見れてよかった」とかずえちゃんが帰り支度を始めた。「乗っていく?車で来たの。みんなとお茶でもしに行こうか」と言うので、わたしは助手席に座った。なぜか車は家の中に乗り入れている。

かずえちゃんがエンジンをかけ、他のみんながまだ乗っていないのに車は発進した。大きなガラス戸の手前で止め、車を降りて「さあ、みんな、乗って」と声をかけた。わたしは助手席に座ったままだ。あれ?車がゆっくりと前進し始めた。「かずえちゃん!ブレーキは?」と声をかけると、かずえちゃんが慌てて運転席に乗り込んできた。車は止まらない。

じわじわと前進し、ゆっくりゆっくりと、ガラス戸に突っ込んでいった。わたしはスローモーションでガラスが割れ、頭から降ってくるところを見た。ぎゃー、と声が出た。ドアは粉々になり、車も傷ついた。黒のワゴン車。そこから逃げ出したかった。しかし、ドアを壊したのだから、大家さんに申告しなければ。

外は晴れていた。大家さんは、坂を登ったところにある肉屋の女将さんだ。たっぷりとした腕をブルンブルンと揺らしながら、女将さんはショーケースに肉を並べていた。「あらいらっしゃい。今日は何にするの?」とにこやかに言った。

事情を話すと、彼女は目を閉じてうんうんと頷いていたが、パッと目を開き、にこやかに「保険に入ってるやろ?いいよ、直してくれれば」と笑った。わたしは「はあ…」と返事ともため息ともつかない声を出し、かずえちゃんが、「すみませんでした!」と頭を下げた。女将さんはきっぷよく「もういいよ!怪我がなくてよかったね!」と言った。

そこに、石井聰亙(今は岳龍と改名)監督が「ロケハンは、進んでいるのかな」とやってきた。え、監督?なぜ今ここに?「探しているんだよ。いい場所を」と、言いながら眩しそうに目を細めた。遠く、眼下に海が見えた。

そこで目が覚めた。やばい。寝不足だ。


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