色付きの夢

よく夢を見る。夢は全てカラーである。

昨夜の夢には、亡くなった先輩が登場。花見の帰りに行方不明になり、数日後に城址の濠で発見されたので、経緯は不明のままだ。
その先輩が、「久しぶりだねえ!」と満面の笑みで話しかけてきた。先輩はいつも、機嫌が良いとおかしなくらいテンションが高かった。夢の中でわたしは、先輩が亡くなっていることを忘れていた。

場所は、どこだかわからないけれど、飲み屋のような、誰かの家のようでもあった。何かのパーティなのか、複数の知人が集まっていた。いくつかの部屋があり、市松模様に貼られたリノリウムの床の部屋は、カウンターが窓辺にあり、白く縁取られた窓から、太陽の光が差し込んでいた。しかし、隣の部屋には窓がなく、濃い赤のベルベットがかけられたソファと、グリーンのカーテンが重苦しい雰囲気で、この差はなんだろう、とぼんやり考えた。

唐突に先輩が現れ、「ねえ、どう?最近」と聞いてきた。
「そうですね…」と答えようとしたら、
「再婚するの?」と次の質問がきた。
「いえ、再婚はしません。」
「いつまで?一生?」
「そうですね。一生、再婚はしません」
「ふーん」
「先輩は再婚するんですか?」
「しないよ!」
笑顔がさらに輝く。
「そうそう、新車を買ったんだ。」
「えっ、なにを買ったんですか?あっ。フォルクスワーゲン?」
「そう!そうなんだよ。ふふふふ」
「へえ、いいですね」
先輩は、亡くなる数年前に、フォルクスワーゲンのワゴンを新車で買った。その時、すごく喜んでいたのを覚えている。「大きな買い物をするって、いい気分だよねー!」と言っていた。その様子がわたしの脳内に残っていたのだろう。


他愛もない話題が続く。先輩、元気そうで良かった。窓際の日差しの中で、
ニコニコと笑いながら、窓の外を眺めている。小さな柄がちりばめられた白のシャツがよく似合っていた。ああそうだ。このシャツは、父の日に子どもたちがプレゼントしてくれたのだと、以前話してくれたものだ。

会話の果てに、わたしは気づく。
「あれ?先輩、夫は死んでませんよ。生きてます」
「あ、そうかそうか。」
「いやだなあ、誰と勘違いしているんですか。夫は元気ですよ」
「わかったわかった」

先輩が、向こうの部屋で裸踊りをしているらしい。ワイワイとみんなの声が響く。思えば私たちの入社歓迎会の時、二次会に行かなかったわたしは見ていないのだが、先輩は泥酔して、裸になって床に寝ていたらしい。翌日、同期の人から聞いた話だ。その記憶はあっても、映像は見たことがないから、全くもってぼんやりしている。先輩かどうか確かめようと、どんなに目を凝らしても、遠くにうっすらと人のシルエットが見えるだけだ。

じきに、夢の中では宴会がおひらきになり、ちゃんと服を着た先輩が現れた。
「じゃあね。元気でね」
「先輩こそ」
また先輩が笑った。

「さて、帰ろうか」と、人々が表に出た。わたしも腰をあげる。さようなら先輩。お体に気をつけて。と振り返ったら、もう誰もいなかった。

目が覚めた。午前6時半。窓の外は雨音がして、空気が重かった。先輩が笑って見ていた窓際の日差しは、どこにもなかった。別室にいる夫は、まだ寝ているはずだ。息をして。

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