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えきべん

おとといから、スーパーのチラシを何度も見ては「どれにしようかなあ〜」とウキウキしていた。いや、オットの話である。彼は駅弁が大好きなのだ。
ちょっと離れた場所のスーパーのチラシに「駅弁特集」なるものを見つけ、買いに行こうと決めていた。

昨夜、チラシをテーブルに広げ、「オレはこの近江牛めしとステーキ弁当にしようと思う」と宣言した。そしてムスメには「お前はこの、かに三昧弁当にしたらどうだ」と提案していた。

わたしは駅弁に興味はない。しかし、彼のウキウキした気持ちを損なう発言をしてはいけない。「じゃあ、この…たこめしを…」と指差すと、「やっぱりね!それを選ぶと思ってた!」となんだか楽しそうに笑った。駅弁って、そんなにも気分が上がるもんなのか。

わたしがたこめしを選んだ理由は、オットの好きな「駅弁ひとり旅」をチラッと読んだ時に、見た覚えがあったからだ。

参照・オットが読み込んでいるシリーズ

「明日は、早起きして開店と同時に行かないとな。油断していたら、あっという間に売り切れるからな」と、まるで試合の前夜に気持ちを引き締めているアスリートのような表情で言った。本当に?駅弁ってそんなに人気なの?わたしはたかがその辺のスーパーで「ちょっと駅弁を集めてみました」みたいな企画だし、買い物にきたお客さんが「あら、珍しいわね、ちょっと買ってみましょうか」というようなスタンスだと思っていた。明日は発売日だからとNintendoスイッチをゲットするために夜中から並ぶとか、子どもの運動会の場所取りに早朝の開門と同時にダッシュする保護者みたいな覚悟が必要なのかしら?

10時開店に合わせて向かったオットから、LINEがきた。「開店5分で、カニは残り一つ、タコは2つ。あぶねー。駅弁と侮るなかれ、整くん」オットが駐車場に車を停めて、店内に入るまでの間に、手に手に駅弁を抱えたお客さんとすれ違ったらしい。そんなに人気なのか。知らなかった。

いただきます!とパッケージを開けながら「あれ?電子レンジで温めると一層美味しく召し上がれますと書いてあるよ」とわたしが言うと、オットは「ふっ。邪道だな」と不敵な笑みを浮かべながら、近江牛めしを頬張っている。「あとは、ビニルパックに入った緑茶と、車窓の風景が要るよな」と呟きながら、「うまいなあ」と嬉しそうだ。ムスメが「揺れながら食べたらいいんじゃない?」と言い、オットが「ガタンゴトンガタンゴトン」と言う。ムスメも体を揺らしながら食べる。なんだか楽しそうでいいね、あなたたち。

「駅弁は列車の中で食べてこそだよ。ああ〜、列車に乗ってどこかに行きたいなあ〜」と、オットは遠い目をした。駅弁ランチで、乗り鉄の血が騒ぎ始めたようである。


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