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教師・保育士の犯罪歴チェックと個人情報の保護-フィンランドの場合

子供と関わる仕事につく人の犯罪歴をチェックできる制度が、日本でも求められている。一方で、個人情報の保護を心配する声もある。

私が住むフィンランドでは、未成年者(18歳未満)と関わる仕事につく前に、犯罪歴の確認が義務づけられている。私自身、教育実習の前に犯罪経歴証明書を提出したことがあり、個人情報保護の手続きが厳密なのに感心した。

保育・教育従事者の犯罪歴チェックと個人情報の保護がフィンランドでどのように両立されているのか紹介したい。

犯罪経歴を確認する方法

子供と関わる仕事に就く人の犯罪歴チェックと個人情報保護の手続きは、「子供に関わる仕事に従事する者の犯罪歴の確認に関する法律」により定められている。

法律の目的は、「子供が性犯罪、虐待、暴力の被害者となるリスクを減らすとともに、薬物使用の誘惑から遠ざけること」だ。言うまでもなく、子供が被害者になり得るのは、性犯罪だけではないからだ。

子供に関する仕事のための犯罪経歴証明書

犯罪歴のチェックは、仕事につく予定の本人が司法登録センターに「子供に関する仕事のための犯罪経歴証明書」を申請・取得して、雇用主に提出する形で行う。

私も証明書を取得して、提出したことがある。申請はオンラインで出来るが、ログイン時に二重の本人認証システムがあって、他人が勝手に情報を見られないようになっている。

フィンランドには、イギリスフランスのような未成年に関連する職業についての欠格事由を通知するシステムはない。

しかし、教師が別の学校で働く場合など、同じ職業でも別の職場にうつる時には犯罪経歴証明書を提出するので、未成年に関連する仕事にふさわしくない者をチェックする機能は果たしているだろう

対象となる犯罪

「子供に関する仕事のための犯罪経歴証明書」に記載されるのは、次の5種類の犯罪だけだ。
・児童を対象とした犯罪(児童ポルノ画像の所持や提供、児童買春など)
・性犯罪(強姦、強制性交、強制わいせつ、 性的暴行、売春あっせん等)
・暴力犯罪(殺人、傷害致死、過失致死、強盗など)
・個人の自由に関する違反(人身売買など)
・薬物犯罪

これ以外の犯罪は、例え過去に犯していても、「子供に関する仕事につくための犯罪経歴証明書」には掲載されない。

対象となる職業

犯罪経歴証明書が必要なのは、保育、教育、そのほか保護者がいない状況で未成年者(18歳未満)にかかわる仕事をする場合だ。対象となる職業は広く、保育士や教員はもちろん、スクールカウンセラーや用務員など保育や教育をサポートするスタッフも対象となる。学童保育やユースセンター(13歳から利用可能)の指導員、児童相談所や児童保護施設の職員も含まれる。

2012年からは教育実習などの実習でも、2014年からはボランティアでも未成年と関わる場合には、犯罪歴証明書が求められるようになった。この場合のボランティアは、非営利団体という意味で、子供向けのスポーツ教室や習い事の教室で有料で教える場合も含まれる。

個人情報保護の方法

雇用主には、採用予定者の犯罪歴を契約前にチェックする義務がある。

一方、採用予定者には、犯罪経歴証明書を提出する義務はない。個人情報を他人に見せたくなければ、証明書を提出しない自由はある。しかし、提出しないと、仕事につけない。なぜなら、雇用主から求められてから30日以内に提出しないと、内定が取り消される規定があるからだ。

雇い主には、犯罪経歴をチェックする義務と同時に、秘密保持の義務もある。秘密保持のための手続きは厳格に定められていて、違反には罰則がついている。

まず、雇い主は、子供に関わる仕事の職員を募集するときに、求人条件に、「犯罪経歴証明書の提出が要請される」と、明記しなくてはいけない。
実際に証明書の提出を求るのは、採用を内定した時点だ。

雇い主は、犯罪経歴証明書を見てメモを取ったら、すぐに証明書を返却しなくてはいけない。保持したり、コピーを取るのは、禁じられている。秘密保持義務に違反すると、罰金か最大で一年の禁固刑が科される。

犯罪経歴証明書の申請と取得は、仕事に従事しようとする本人しかできない。雇用主は、働こうとする人の犯罪経歴を勝手に見られないし、委任があっても、雇用主が代わりに申請できない。例外はボランティアで、ボランティアをする人の委任状とともにボランティア団体の代表が窓口で申請する。

問題点

言うまでもないが、採用時までに犯罪歴がないことは、必ずしも以降も犯罪を起こさないことを保証するものではない。リスクを減らすだけだ。また、現在のフィンランドのシステムは、犯罪歴の確認は採用の時点だけで、採用後に起きた犯罪は、チェックできない。採用後も確認できるシステムが必要だ。

もう一つの問題は、現システムでは、3か月未満の契約には、犯罪証明書が発行されないことだ。例えば、臨時保育士として2か月だけ働く場合、保育園と個人が直接契約すると、犯罪証明書を申請しても発行されない。改善が求められているが、まだ実現されていない。自治体や派遣会社は、臨時教員・保育士、ベビーシッターとして働きたい人と3か月以上の登録契約をして、そこから派遣する形で、犯罪歴の確認をするように努めている。

上に挙げた2つの問題は、犯罪歴チェックの制度を作るときに、抜け落ちるケースがないかどうか熟考しなければいけない例だろう。この点については、日本で犯罪歴チェックを訴える中心になっているのが 保育の提供者や被害児童の保護者だということは、心強い。


最後に

子供に関わる仕事につく人の犯罪歴確認と個人情報の保護がフィンランドでどう両立されているかを紹介した。フィンランドについての情報が、問題点を含めて、日本のシステムを作る上で役に立てれば幸いだ。子どもたちが安全な環境ですごせるように、活発な議論が進み、犯罪歴チェックの制度が実現することを切に願う。






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