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わたしの旅の「目的」を一変させてしまった出会い ~ゲストハウス梅鉢~

27歳のとき。
私の旅の概念を大きく変えてしまう宿に出会った。
仙台市にある「ゲストハウス梅鉢」だ。

当時、私は転勤して仙台市に住んでいたが、
仕事に区切りをつけて地元の岐阜に戻ることが決まっていた。

「仙台にいるうちに会いに行くね!」
そう言って12月に名古屋からはるばる遊びに来てくれた友人と合流するため、
たまたま近所のゲストハウスに一緒に泊まることになった。

その時まで私は、ゲストハウスやユースホステルといった共同宿泊施設に泊まったことが一度もなかった。
友人がゲストハウス好きで、
「ドミトリーは不安かもしれないけど、女性専用ルームもあるし、絶対好きになると思うから!」と押し切られて決まった。

旅行自体は好きで、大学時代の友人と京都、四国、九州といろいろなところを訪ねたが、
夜は決まって安いビジネスホテルだった。そもそもホテルに宿泊することが特別だったので、それで満足だったのだ。

初めてのゲストハウス。
「梅鉢」は東北の震災の後、ボランティアの宿泊先を確保する目的もあって運営が始まった。
1階には10名ほどが寛げる交流スペースがあり、そこかしこに手作り感があって温かい空間だ。
人懐っこいオーナーと、親しみやすい女将が夫婦で経営している。
当時はヘルパーとして、ちょうど同世代の女性スタッフもいた。

多少は緊張していたはずだが、ご夫婦のざっくばらんな雰囲気と、
リノベされた素敵な空間に魅せられて、私はすぐにリラックスしてしまった。
(友人を置き去りにするほどよく喋った)

世間話をしていると、以前梅鉢で住み込みヘルパーを務めていた男性スタッフを、私の友人がヒッチハイクで乗っけたらしいことが分かった。
なんという偶然!みんなで不思議な縁に盛り上がった。

日が沈むと、自然と帰ってきたゲストどうしの交流が始まった。
ご近所の方も何人かふらりと遊びに来ては、お土産を一緒に囲んで話した。
ひとり旅だろうが、カップルだろうが、家族旅行だろうが関係ない。
初対面同士でめいめいにその場限りの出会いを楽しんだ。
ふと思った。「もっと早く梅鉢と出会っていたら、私は地元に帰らなかったかもな…」

その夜、一緒のドミトリーに宿泊したのは、少し年上のお姉さんと、10代の女の子、女性スタッフ。
普段の生活では絶対に交わらない関係性。
お姉さんが事情があって家を出て苦労されている話をお聞きしながら、
青春真っ只中の女の子の恋愛話で盛り上がる。
結局消灯時間になってもベッドルームでコソコソ話し続けた。まるで中学校の修学旅行の夜みたいに。

翌日は、宿で知り合った一人旅の男の子を誘って一緒に観光することに。
昨日までは全くの赤の他人だったのに。
そして明日からはきっとまた、それぞれの日常に戻っていくのに。

私は初めてのゲストハウスで感じた衝撃が忘れられず、岐阜に帰るまで、何度も何度も梅鉢に通った。
毎晩ゲストとの違う出会いがあり、どんな夜でも「楽しかったな」で終えられる。
すっかりオーナー夫婦と顔見知りになり、仙台最終日前夜も、その夜のゲストたちにちゃっかり送別してもらった。
私にとって大切なサードプレイス、心の居場所になっていた。

この頃から、私の旅の目的は観光地ではなく「ゲストハウス」になった。
1か所でも多く、素敵なゲストハウスに出会いたい。

当時ちょうどゲストハウスがブームになりつつあり情報も増えていた。
できる限りリノベーションされ、オーナーの想いが感じられる小中規模な施設を選んでは旅をした。

本当は1か所ごとに「わたしの旅行記」を残すことができるのだが、
この企画ではやっぱり私の旅の原点、初めてのゲストハウス梅鉢について記録しておきたいと思った。

また会いに行くね。
また「おかえり」って迎えてね。

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