見出し画像

TIMSS2019の結果を見てみよう:中学校理科編

前回に引き続き、この記事では、2019年に実施された国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)の中学校理科の結果をもとに、国際的な傾向を整理します。内容の大部分は、TIMSS 2019 Highlights(英語)を整理 したものですので、時間のある方はそちらも併せてご覧ください。TIMSSの概要や小学校理科の結果などは前回の記事をご覧ください。
※この記事は、理科教育 Advent Calendar 2020の11日目の記事を兼ねています。

得点の結果

中学校理科の得点は、項目反応理論に基づき、これまでの調査結果と比較可能な同一尺度上に得点化されました。各国の平均得点は、TIMSS1995の国際平均を500点とした場合、何点に相当するかが示されています。また、得点の目安として、625点がとても高い水準、550点が高い水準、475点が中程度の水準、400点が低い水準とされています。

下図に示すTIMSS2019中学校理科の得点を見ると、東アジア諸国が上位を占めていることが分かります。シンガポール、台湾、日本、韓国が上位陣です。

画像1

参加国の中で、前回のTIMSS2015と比べて得点が有意に向上した国は11か国、低下した国は5か国ありました。日本は前回とくらべて有意な得点の変化が見られませんでした。

画像3

得点の男女差を見ると多くの国で差が見られない一方で、男子の方が高得点の国が6か国、女子の方が得点が高い国が15か国ありました。

画像6

TIMSS2019理科の問題例(中学校)

次に、TIMSS2019の問題のジャンルといくつかの具体例を紹介します。中学校2年生の問題では、4つの内容領域(生物・化学・物理・地球科学)と3つの認知領域(知識、応用、推論)が組み合わさった問題が約220項目用意されました。参加者はすべての問題に回答するのではなく、割り当てられた一部の問題に回答しました。調査終了後、正答率の結果から、各問題は得点の水準と対応する4つの難易度(易しい、やや易しい、やや難しい、難しい)に分類されました。各難易度の問題例をいくつか紹介します。(※公開されている問題例は英語だったので、筆者の方で日本語訳を付けています。実際に使用された日本語表現ではありません。)

下の画像の問題1は、化学ー応用領域の問題で、元素と化合物の識別を問う問題でした。これはやや易しい問題で、正答率の国際平均は61%(日本は77%)でした。

画像4

下の画像の問題2は、物理ー応用領域の問題で、音の伝わり方に関する問題でした。これはやや難しい問題で、正答率の国際平均は38%(日本は56%)でした。

画像5

下の画像の問題3は、化学ー応用領域の問題で、元素の大きさに関する問題でした。これは難しい問題で、正答率の国際平均は29%(日本は44%)でした。

画像6

生徒への質問紙調査

TIMSS調査では、生徒・保護者・学校・教師に質問紙調査を行っています。質問紙調査と生徒の得点を合わせて分析すると、様々な傾向が見えてきます。生徒への質問紙調査では、「理科を学ぶことが好きか」が調査され、3つのレベル(とても好き、やや好き、嫌い)に分類されました。得点と比較すると、下図のように、[とても好き]と答えた35%の生徒が相対的に高い得点を獲得していました。

画像7

また、生徒への質問紙調査では、理科という教科にどれくらい価値を見出しているかが調査されました(e.g., 理科を勉強すると役立つなど)。得点と比較すると、理科に強い価値を認めている生徒ほど高い得点を獲得している傾向にありました。

画像8

また、理科の授業の分かりやすさについて尋ねた結果からは、授業が分かりやすいと回答した生徒(49%)の得点が高い傾向にあることが分かります。

画像11

学校への質問紙調査の結果

学校への質問紙調査では、各学校で規律がどの程度守られているかが調査されました(e.g., 遅刻、窃盗、授業妨害、暴力)。得点と比較すると、規律に関する問題がほとんど問題ない(Hardly any problems)学校ほど得点が高い傾向にありました。

画像9

教師への質問紙調査の結果

次に、教師への質問紙調査についてです。TIMSS2019では、教師が自身の専門性を高めるために受けた研修と受けることを希望する研修を調査しています。中学校教員の結果は下図右側の通りです。青色が受けた研修、赤色が受けることを希望する研修を示しています。この結果から、「理科授業でのテクノロジー活用(70%)」「批判的思考と探究スキルを育てる方法(68%)」といった研修が不足していることが分かります。

画像11

おわりに(前回と同じものを再掲)

近年、各国が理系人材の育成に力を注いでおり、TIMSS調査の結果がもたらすインパクトもより強くなってきているように思います。ただし気をつけなければいけないのは、学力という概念は多様であり、国際調査であっても測定できているのはその一側面に過ぎないというところです。調査の得点を上げることだけに特化した改革は、本質的な目標から外れる危険性を持っています。調査結果やその価値を理解するための第一歩は、調査について正しく理解することです。TIMSS調査に関するドキュメントは、Web上で無料で公開されています。また、来年には国立教育政策研究所から日本語のより詳細な資料が公表されるものと考えられます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?