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理科におけるICT活用の効果

この記事は、理科教育 Advent Calendar 2019の4日目の記事です。

今回は、理科でICTを活用するのってどれくらい効果あるの?ということについて、エビデンスを示しながら、お話したいと思います。

ICTに囲まれた社会

いきなりですが、クイズです。この写真に写っているのは、何の機械でしょうか?

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これは、去年の夏に富士山の登山口で見つけたもので、登山口を通過した人を検出し、人数を自動送信するものです。

このように、私たちの社会では、ICT(Information and Communication Technology)がものすごい勢いで普及しています。

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ICTの普及は、私たちの生活を大きく変えました。上の写真は、2005年と2013年のローマ法王の就任式の際の様子です。1人1人がICTを使いこなす時代の訪れを感じます。

ICTの普及は、大人だけに限ったことではありません。先日、PISA2018の調査結果が公表され、読解力の低下が話題になりました。高校1年生を対象としたこのPISA調査では、ICTの利用状況についても質問しています。その結果、1日に2時間以上、学校外でインターネットを利用する日本の生徒の割合は、47%であることが明らかになっています。

教育とICT

このような社会状況もあり、教育でもICTの活用が求められています。

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国内では、年間1805億円かけて、学校にICTの整備を行っていくことが計画されています。

科学教育学会2018(中村ら)

では、ICT活用には投資に見合うだけの効果が本当にあるのでしょうか? ここからが今回の本題です。結果のみに興味がある方は、次のセクションは読み飛ばしてください。

教育の効果

そもそも、教育の効果ってなんでしょうか?授業である指導を行ったとして、その効果というのはどのように測定したらいいのでしょうか?

教育の効果の測定方法には、主に3つのタイプがあります。

★タイプ1(事後評価):
指導後に質問紙調査やテストを行う。
*効果=点数の高さ
★タイプ2(被験者内計画):
指導の前と後で、質問紙やテストの点数を比較する。
*効果=事後点数ー事前点数
★タイプ3(被験者間計画):
新しい指導を行う実験群と、旧来の指導を行う統制群で点数を比較する。
*効果=実験群の点数ー統制群の点数

このうち、タイプ1は、元から能力が高かったのか、教育によって向上したのかが判断しにくいという短所があるため、タイプ2・3の方が良いデザインと言えます。

では、タイプ2・3を用いた研究で、効果があると示されれば、それを信じていいのでしょうか?教育の実践研究の特徴として、サンプルサイズが小さいという特徴があります。授業はクラス単位で行われるため、実践研究はサンプルサイズが多くなりにくいのです。なので、ある1つの実践研究で効果があったからといって、日本全体で効果が期待できる(一般化可能)と結論付けることは難しいです。

また、同じような実践でも、効果が高かった場合もあれば、効果が低かった場合もあるでしょう。私たちは、どのようにして全体的な結論を導けばいいのでしょうか?

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理科におけるICT活用の効果

これまでに述べた問題は、メタ分析という手法を使うことで部分的に解決可能です。

メタ分析では、同一の指導法で行われた複数の実践研究を集めて、効果の大きさの平均を計算することで、その指導法に期待できる平均的な効果の大きさを導くことができます。日本でも、ジョン・ハッティの『教育の効果』という本が発売され、メタ分析の認知度が上がってきています。

そこで、筆者らは、過去30年間の日本国内の理数教育におけるICT活用の実践研究を集めてきて、それぞれの教育の効果の大きさ(効果量)を計算しました。そして、それらの効果の大きさ(効果量)をメタ分析した結果、平均が0.42であることを明らかにしました。

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さて、前述のハッティ本によれば、世界中のありとあらゆる指導法の効果を平均すると0.40になることが明らかになっています。また、ハッティによれば、コンピュータを利用した世界中の指導の効果は平均0.37だったそうです。その一方で、教師がフィードバックを返す指導の効果は0.77、メタ認知的方略の指導の効果は0.69であることも明らかになっています。

これらの値と比べても、国内の理科におけるICT活用の効果0.42は、決して高いとはいえません。もちろん、効果が無いわけではないのですが、他の指導法と比べて高いわけでもないのです。この効果の大きさに、何億円ものお金をかける価値があるのでしょうか?

では、どうするべきか

ICT活用の効果が低いといっても、国が方針を決めた以上、これから整備が進むでしょうし、ICTに関するリテラシーの育成が必要という主張は理解できます。

そこで、理科において効果的なICTの使い方について、データから考えてみます。下の図の赤枠の部分を見てください。

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この図は、活用目的によってICT活用の効果がちがうことを示しています。具体的には、拡大・可視化理解支援を目的とした場合には、学習者の資質・能力育成に効果的だけど、動機付けだけを目的とした場合、効果が低いということを示しています。つまり、ICT機器を使えて楽しい!ということだけじゃ資質・能力は育たないわけです(当たり前ですが)。

まとめ

国内外のメタ分析の結果から、理科においてICTを活用する効果は、他の指導法と比べて決して高くないという結論を導き出せます。

それでも、資質・能力の育成に向けて効果を上げるためには、学習者の動機付けのためだけに使うのではなく、拡大・可視化といったICTにしかできない特徴を活かしたり、理解の支援に向けて活用することが有効かもしれません。

膨大な予算をつぎ込む以上、ICT機器が学校でほこりをかぶって眠っているなんてことにならないよう、有効活用する方法を探っていければと思います。長文にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。

初出:中村大輝・山根悠平・西内舞・雲財寛(2019)「理数科教育におけるテクノロジー活用の効果 ―メタ分析を通した研究成果の統合―」『科学教育研究』43(2), 82-91.

*スライド(過去の学会発表より)


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