アイドル(とわたし)の働き方-SUGAインタビューに寄せて-

先日のWeverse Magazineに掲載されたBTSメンバーSUGAさんのインタビューが興味深かった、という話をしたい。

https://magazine.weverse.io/article/view?lang=ja&colca=1&num=214
というのも、「夢を売る職業なんだから」とか、「スターなんだから」というような言葉で、なんとなく例外とされていたアイドル(もしくは芸能人?)の働き方についての明確な言及があったからだ。

世間では(おそらく、日本に限らず韓国や世界でも)、いわゆる「働き方改革」が一つのBuzz Wordになっているかと思う。
あまり働くことが好きではないので、ちょっと前まで「どんどんやれ~~!」「たくさん休めるとか最高じゃん!」くらいに考えていた私だけれど、いざ自分の仕事にも影響が出始めると、「ひょっとして働き方改革にころされるのでは、、」と思うこともときどきあり、働くって難しいな~~と思い始めました。

というのも、当たり前だけど、人間って一人一人違うのです。能力や得意とすることも違うし、重んじることも、ストレス要因も違う。そんな中で、みんなが納得するような形で評価基準を決めて、報酬(お金に限らず)を返していくってめちゃくちゃめちゃくちゃ難しいな!?と思うのですね。

例えば、私自身は今裁量労働制のいわゆる評価主義の雇用形態で働いています。ベースの考え方としては、あくまで成果物での評価となるので、時間軸での評価はされません。(定時より短時間でもOKだし、逆に残業代も出ない。実情は…というのはもちろんあるけど)
そんなところに働き方改革として労働時間の制約が入ってくると、評価軸にブレが生じてくるわけですね。例えば、「多少長めに働くことにはストレスを感じないけど、急かされるのが苦手。ゆっくり丁寧に仕事をしたい」という人がいたとして、労働時間の制約が入った結果、成果物の質が落ちて評価(そしてそれに紐づく報酬)が下がってしまう。それって果たして平等なの?(仕事の速さだけが出来不出来じゃないよね?)という議論が発生したりする。
一方で、過剰労働に歯止めをかけるべき、というのも正論であってどこかで誰かが線を引かないといけないのは事実であり、でも労働時間の耐性って人によって違うし、自分のことなら自分で把握できんのか?と言われるとそうとも限らないし(気づかぬうちに無理をしているから周りが止めないと、みたいなこともあるし)という堂々巡り。そもそも、評価主義って成果物に対する評価が妥当であることが前提だけどそれって誰が担保するの?全員が納得することって可能?みたいな話もある。あ~~働くって難しい!

また、労働の負荷の感じ方や仕事のやりやすさが人によって違うのと同時に、報酬の形と重みづけも人によって違う。働く対価ってお金だけじゃない。分かりやすいものだと、やりがいだったり、人間関係だったり(ちなみにですが、転職する理由のほとんどはお金、時間、人、やりがいに紐づくそうです。そりゃそうか)。
実際私もちょっと前までめちゃくちゃ暇な案件(毎日労働時間定時マイナスくらい)をやっていて、最近結構忙しい案件に移ったのですが、前述の通り残業しようとしなかろうと給料は1円も変わらないのだけど、意外と忙しい今のほうがいいんですね。(まあ来月意見変わってるかもしれないけど笑)。理由を考えると忙しいなりにチームの雰囲気が良いこと(人間関係)と、あとはそれなりに忙しく働くことは自己実現感、自尊心の醸成につながるからかな~とか思っている。楽で給料が高けりゃいいってもんじゃないなっていう一例でした。(これの優先順位のつけ方もまた人によって違うから、人のマネージメントや仕事の選び方は難しいのですね)(余談ですが、この得手不得手や、報酬の重みづけが違うからこそ人はチームで働くのだ(自分の不得手な部分を埋めてくれるメンバーに感謝)みたいなRMさんがよくする話が私は大好きです。)

ちょうどそんなことを考えているところに、SUGAさんのインタビューが出たので、あ~アイドルも人間なのだな、難しいよなっていろいろ考えてしまったのですね(ようやく本題。前置きの自分語りが長すぎ)。

SUGAさんの言っていることを私なりに要約すると、こういうことかと思う。
・商業的に何をすべきか、というのは、もうある程度世の中で判明しているが、タレント側の体力と折り合わないと実行できない。
・タレントがただただ事務所の言うことを聞かないといけない時期というのは確かに存在するが、事務所がタレントの意見を聞くこと、やるべきことの理由をきちんと説明することを怠ると、タレント側の心が死ぬ。
・タレント側が楽しめていない状況で、観客を楽しませることは難しく、どこかのタイミングで限界が来る。
・以上を踏まえると、事務所はきちんとタレントの意見と体力を尊重すべき。遠回りに見えるかもしれないが、そのほうが結果的に商業的な成功にもつながるし、長期的な活動も可能にする(事務所としても何組も育てる必要がなくなる)。双方Win-Winの関係をめざすべき。(ビッヒとBTSはそういう関係性が築けているので良い)

つまり、スターなんだから忙しくて当たり前!とか、ステータスや高収入という対価があるんだから我慢しろ!とか、そのほうが売れるから何も考えず事務所の言う通りの仕事をやれ!と言われがちなアイドル/芸能人にも、体力(労働時間・内容)の観点、仕事の納得感、やりがいの観点を踏まえて仕事の仕方を考えるべき、という提言なわけですね。体力面も精神面も、アイドル/芸能人だって一人の人間なんだから、限界がありますよ、と。
いや~、SUGAさん、視野が広いな、と思った(インタビュー内でも言及があったけどグループメンバーとしても、ソロとしても、プロデューサーとしても活動しているからですかね、、)。SUGAさんの言うことはめちゃくちちゃ正しいし、この考え方が浸透していくのが理想だろうな、と思った。

一方で、それって、BTS以外に実現できるのだろうか、、と思う自分もいる。
BTSとビッヒの関係性は、たぶんちょっと特殊だ。事務所とグループが二人三脚で大きくなっていったという歴史もあるし、BTSがバカデカグループ(やめられたら困るという思いが絶対にビッヒ側にあるし、メンバー側にその自覚もきっとある)であるということもあり、そりゃあ事務所に意見言えるだろうし、事務所側も尊重するでしょうよ、と思うわけです。(2019年にメンバー側から直談判して1か月の長期休暇を取ったことや、ビッヒの上場時にメンバーが株主になったことなどが実例として挙げられると思う)

でも、普通のアイドルだったら?まして練習生だったら?
活動量やデビューの権限を事務所が握っている中で、言いたいこと、不満があったとしても、果たして意見が言えるだろうか。事務所側も、「やりたい人は他にもいっぱいいる。代わりはいる」という思いを捨てて、一人一人を尊重して意見に耳を傾けられるだろうか。

ここまでくると、(もちろん他の選択肢が比較的持ちやすいので、アイドルほどではないかもしれないけれど)普通にアイドル以外の社員と会社の話と同じだな、とも思う。結局、SUGAさんが言うように、「アイドル/社員を尊重したほうが、長い目で見れば事務所/会社にとっても得」ということを浸透させるのが肝なんだろうけど、みんながみんなSUGAさんみたいに視野が広いわけじゃないから難しい。たまたま、トップの視野が広くて実現てきている会社があったとしても、実現できている理由が人に紐づいてしまっていると長続きしないし世間全体には広がっていかないし、、。上が聞く気があってもアイドル/社員側が忖度して意見言わないかもしれないし、、。

まったく具体的な解決策は思い浮かばず、結局理想論なんだけど、アイドル/社員側、事務所/会社側双方にとって大切なのは、「代わりはいる」という思いを捨てることなのかなあ、と思います。
「代わりがいるから捨てられちゃうかも」と思って意見を言わないし、「代わりがいるから捨てればいい」と思って意見を聞かない・尊重しないと思うので。
結局Love yourselfみたいな話になって自分で笑っているんですけど(すべての道はラブユアに通ず、、、)、あなたの代わりも、わたしの代わりも当たり前にいないんです。自信と尊重、胸に刻もうと思う。
とは言え、働く上では会社に寄与するということももちろん必要なので(対価としてお賃金をもらうからね)、自分に自信を持ち、相手に尊重してもらうために、スキルを付けるとか(対会社じゃなければ、感じの良い人、オモロい人であるよう努力するとか、見た目に気を配るとか)、開き直るのではなくそういった努力を怠らないことが前提になるのかなあと思います。
自分は自分であるだけで素晴らしいけど、とは言えある程度の頑張りは礼儀だし、尊重してほしければ相手を尊重しましょう(会社を尊重する一例としてのスキルアップかな)みたいな、、。

同時に、アイドルの働き方改革(仮)をSUGAさんみたいに影響力がある人が発信してくれたことはとても大きいな、と思います。他の事務所も、どうやってBTSが成功したのか、ということには絶対に興味があるはずなので、ビッヒとBTSの関係性を真似しようとする事務所が増えていけば、アイドルの労働環境も改善されていくのかな~そうなればいいな~と思う今日この頃でございます。

長い&とっちらかりましたが、SUGAさんのインタビューから考えたことでした。書きながら考えたので行ったり来たりですが、頭の整理になりました。満足!笑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?