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「竜とそばかすの姫」は心の物語。マンガ家による解析

ネタバレなしの感想

細田守監督の「竜とそばかすの姫」を見てきました!
いやぁ~映画館で見たのは正解でした✨

イントロから引き込まれる大迫力!
世界観もすごかったし、
今回の肝である歌がよくて気持ちよく、最高でした✨

感動して涙が出るシーンも多数あり
鑑賞後、よき気分になる、そんな映画でした。
主人公や親友、支える男の子のキャラクターもいい味が出ていました(笑)

さて、よき映画でしたので、ストーリーに携わる者として
この「竜とそばかすの姫」の解析をしてみたいなと思います。

ですので当記事は、がっつりネタバレを含みます💧
もしネタバレいやだよ~という方は、
よかったらネタバレ一切なしの旦那の記事をご覧ください(笑)

鑑賞後の感覚がよく表現されています(笑)

※ここから、ネタバレ含みます






はい、ここをご覧いただいているということは、ネタバレOKということですね✨
ここからは、ストーリーを作っている者の視点で「竜とそばかすの姫」を解析してみたいと思います。

《ここからネタバレあり》この映画を一言で表すと…

”地味な歌姫が少年を救う物語” 

タイトルにもなっているそばかすのある歌姫。
主人公はそばかすもある上に地味な女の子です。

そばかすってどっちかっていうと、避けられているというか
一般的に言われる”美”と対極にあるように扱われますよね。
(最近はファッションモデルさんでも、あえてそばかすを目立たせている広告も見かける感じもしますけど)

なので、「そばかすの姫」っていうタイトルだけでも
”そばかす”と”姫”というギャップ、新しさを感じさせる効果を生んでいますね✨

今作では、そのギャップがストーリー上でも素晴らしい効果を生んでいます。その点については後でご説明しますね。


インターネット空間「U」と現実空間

まず、この映画の舞台となるのが
インターネット空間「U(ユー)」の世界です。
この「U」の世界の中では、人は自分のアバター「As(アズ)」になります。

面白い点が
Asは、自分が作るアバターではなく
現実空間のオリジン(その人)の生体情報を取り込んで、
AIで自動生成されるアバターなのです。

その姿は、オリジンの潜在的な内面を表現した姿になっており
ある人は赤んぼ、ある人は怪獣、ある人は…と言ったように多彩な外見をしております。

もしアバターを自分で作る設定だったら、着飾ったり、美人にしたり、人目を気にしてかっこつけたアバターになるかと思いますが(笑)
Uはそういう世界ではない。

つまり

As you are(あるがままに)

「U」の世界の中の「As」とは
「あなたのあるがままの姿」を意味しているのだと思います。

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「Uの世界ではリラックスして世界を楽しんでいただくために、アバターは生体情報から自動で生成されます」といったような説明もあったので、
あるがままの姿を出す、それがリラックスにつながる
という意味も込められているのでしょう。

現実では、外見という”レッテル”に隠れて見えない内面が
Uの世界では明らかになる。

だから、Uの世界は現実から一皮むけた、心が出やすい世界となっています。


主人公すずは、Uの世界で歌姫Belle(ベル)となり、
閉じていた心をだんだんと解き放っていきます。


美女と野獣の世界に「心」を裏付けた

映画を見た方はよくわかると思いますが、本作はディズニー映画の「美女と野獣」を模したシーンが多く出てきます。
細田監督のディズニー映画へのリスペクトを感じました。

けれど、もちろん両者には違いがあります。
「竜とそばかすの姫」と「美女と野獣」の違いは、以下の通り。

竜とそばかすの姫_004

高嶺の花的な憧れヒロインではなく
弱さやコンプレックスを持った心優しいヒロインとなっております。

このことは、この現実をよく表しています。

誰しもどこかにコンプレックスを抱えているもの。

きらびやかな世界を見て
あぁ、あの人はキレイだなぁ
こんな世界って素敵!

しかし、現実に戻るとそこにはコンプレックスまみれの自分がいる。
あぁ、私はなんて不細工なんだろう。
あぁ、私はなんてイケてないんだろう。

そんな「みっともない」自分を否定して覆い隠す。
そしてまた、きらびやかな世界を夢見る――。

けれど、今作では
美しい歌姫Belleと地味な少女すずが
まさかの同一人物!

多くの人が持つコンプレックス(心の痛み)に寄り添える主人公

となったわけです✨

心にフォーカスした作品という意味で、
よき”日本らしさ”が出ている作品だと言えます。

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ストーリーを引き立てる対立構造

ストーリーを引き立てるのは「葛藤」であり、「対立」ですが
この映画の対立構造は何かというと

断罪する正義(ジャスティン) VS 痛みに寄り添う者(すず)

と言えるかなと思います。

主人公のすずは幼少期に母を亡くしました。
母は氾濫しかかってる川で被災しそうになっていた、名前も知らない子を助け、自分は川に流され、亡くなってしまったのです。

さらに悪いことに、その母の行動は、ネット上で大いに叩かれます。
ただでさえショックなのに、大好きな母のことを叩いた世間のことも信頼できなくなり、すずは心を閉ざしました。

なぜ自分を置いて行ったのか?なぜ自分を優先してくれなかったのか?
なぜ周りの大人たちは助けてくれなかったのか?

そんなことをずっと考えますが、その考えが生まれる根っこには
”大好きな人を失ったさみしさ”という”痛み”があります。

その痛みから、現実世界では
閉じこもり、父にも心を開かず、
大好きな歌さえも歌うことができなくなってしまったわけです。

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傷ついた少年ー”竜”との出会い

しかし、そんなすずもUの世界でBelleになることで、変わります。

大好きな歌が歌えるようになり
その歌が大勢の人の心に響き、認められ、
一躍、「U」の中で時の人となります。

数か月後には、巨大スタジアムで
初めてBelleのライブが開催され、1億人が集まることに…

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しかし、その時、事件が起こります。

”竜”と呼ばれるAsが紛れ込んでくるのです。
さらにその”竜”は、Uの秩序を守る正義の集団に追われていました。

今まさにライブが始まろうとしていたスタジアム内、一億人の前で
竜 VS 正義の集団
のバトルが勃発してしまいます。

1対多という、果たして正義なのか、そのシチュエーションは?
と思われる正義側の追い込みですが、それをものともせず
竜は正義側をボコボコに!

竜が忌み嫌われている理由の一つには
相手を完膚なきまで(データが破損してしまうまで)
ボコボコにするから、という理由がありました。

なぜそんなにも相手をボコボコにするのでしょうか?

それは、竜が心から傷ついていて、世界を信頼していないからでした。

Belleのライブに乱入してきたことで、竜の正体(オリジン)は誰だ?と全世界が沸き立ち、竜の正体を追うことが、本作のメインイベントでもあるのですが、サクッとネタバレしてしまうと(笑)

竜の正体は実は、親にモラハラを受けている少年でした。

「お前には価値がない」「何で言うことを聞けないんだ」等々、言葉の暴力を浴びせかけられていたのです。

今まで、多くの大人たちが「あなたを助けたい」とすり寄ってきましたが、結局、親からモラハラを受ける現実は何も変わらなかった。

だから、少年は、世界を信頼することをやめてしまい、攻撃的になり、Uの世界で野獣の様な竜の姿になっていたのでした。

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この少年”竜”が暗示しているものは何か
それは一人一人の心の中にある ”認めたくない自分”であると思います。

認めたくないかっこ悪い自分。
それを排除したい。理性という ”正義” でボコボコに殴って
追い出そうとするけれど

心の奥深くの古城に、その醜い自分は…ずっといるのです。


すべての人がもつ”痛み”を癒す 等身大の歌姫

竜(少年)に信頼してもらうために、すずはBelleという美しい歌姫のアバターを脱ぐ決断をします。

それは、言わば、本当の意味での「あるがまま」―

コンプレックスまみれの弱い自分を50億の人の前で晒すこと。。

色んなレッテルを張られる恐れがあります。
地味だ、ブスだ、幻滅だ、みっともない…等々

もしそれがオリジン(リアルな自分)に貼られるレッテルだったら、その痛みたるや想像を絶します(TT)
実際、親友の女の子でさえ、「今まで積み上げてきたものがなくなる!前の情けないすずに戻ってもいいの!?」と心配していました。

人前で弱い自分をそのまま出すということは、本当に勇気のいることです。

けれどすずは、少年を救うために、少年に信じてもらうために
自分をさらけ出すことを決意しました。

そして―

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そんなすずの等身大の勇気は、
50億の人の心を揺さぶり感動させたのです。

一人一人の心の中にあった”痛み”、弱い部分。
弱い部分であり、玉のように純粋な心。

すずの歌に共鳴して、その心が震えたのです。


そして「現実」と「U」の差がなくなる

Uの世界で、本当のあるがままを表現できたすずは
今度は現実世界でも少年を助けに行くため行動します。

今まで、Uの世界でしかありのままの自分を表現できていなかったのに、
現実でも自分の意志が通った行動ができるようになったのです。

それは内面と現実が一致した瞬間でもありました。

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まさに

現実世界 as you are

自分の人生の主導権を、自分の手に取り戻した瞬間と言えるでしょう。

少女すずは心の痛みに寄り添うことで、昇華し、
現実世界でも成長を果たしました✨


実はどんな人にも傷がある

今回、敵キャラとして、
正義の集団とモラハラをする側の親が描かれていましたが

その敵キャラにも、心の傷があると言えるでしょう。

それがねじくれた形になって表れてしまっているわけですね。。


問題意識と伝えたかったメッセージを読み解く

今作では、もう一つの隠された対立構造として

無関心、無責任な世論 VS 弱き者

というものも感じ取れました。
ここに細田監督の社会への問題意識が現れている感じがします。

弱き者が虐げられる社会。
そこに手を差し伸べるどころか、叩いたり無関心な世間。

そして一人の人間の中にも
正義 VS 醜い自分 の戦いがずっとあること。

特に無関心が加速していってる背景には

傷ついた尊厳

があると思います。

こんなにも私の尊厳を傷つけるなら、もう知らない。
小さな幸せでいい。全体なんて知らない。私だけが。
そうなっていくわけです。

だから、尊厳の痛みに気づくことは大切だと思います。

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気になったポイント

このように、心の要素がふんだんに盛り込まれ
とてもすがすがしさを感じる映画だったのですが

ストーリーの運びで気になる点が確かに数点ありました。
・大人たちの存在感の薄さ(笑)
・敵対する正義があからさまに正義
・なぜ少年と弟がちょうどいいタイミングで家から出てきたのか
・モラハラ父がなぜ退散したのか
・なぜ竜を守るためにAIが来てくれたのか

けれど、同じくストーリー制作に携わるはしくれとして
なんとなく気持ちはわかります(笑)

ストーリーを作ってノってくると、大きな流れのようなものに自分が巻き込まれて行く感覚を感じることがあります。

それはもう制御できません(笑)
ただ、不思議なことに、修正していけばいくほど、最初に考えていた構想がぴたりとはまっていく感覚を感じることがあります。

それがいいことなのかどうかはさておきまして…汗

ストーリー展開で気になるポイントはいろいろあったのですが、
おそらく、その部分は細田監督が伝えたかった内容にとって、さして重要ではなかったのでしょう(笑)

作者が表現したかったもの。それは、
痛みを感じ、痛みに寄り添い、痛みを強さにやさしく成長していく姿
だったのではないかなと思います。

ですので、それ以外は、重要な問題ではなかったのかな、、、と(笑)

もしかすると、小説版では詳しく描かれているのかもしれませんね。


もし私だったらこうしてみたい

もし私がこの映画に付け加えるとしたら、こんなのを付け加えてみたいなと思ったこと

● オリジンの心が変化・進化するたびAsも進化する仕様にしたい
● 竜も進化させて、守るものという意味で竜騎士的なアバターに進化させる
● 一躍有名人になってしまったすずの今後も描く
● この事件の結果、現実にどんな影響が出たかを描く
● 周りの大人の切迫感をもっと描く。大人側の背景。
● 正義のジャスティンのオリジンが何者かも描く(ネットパトロールしてるニートだった、とかにしたいな~笑)
● Uの開発者のストーリーも入れるかも

でも、これだけ入れてたら
おそらく一本の映画の時間には収まらないでしょう💧

だからこそ、小説版も作ったのかもしれませんね!


おわりに

大変長くなってしまいましたがお楽しみいただけましたでしょうか?
一度こういう映画解析をしてみたかったので、楽しく描かせていただきました。

特に、前進が良しとされる風潮のあるこの現実において
弱い自分、傷ついた自分を放っておいて
前へ前へと進んでいくことに対して

私はすごく違和感を感じますし
そこを何とかしたいという思いで、マンガを描いているところもありますので、ついつい熱くなってしまいました。

何かプラスになっていたらとてもうれしいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました✨

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