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ライダーと戦闘員。

友人のYは、ショッカーに所属している。
無論、悪の秘密組織に在籍している訳であり
人様に堂々と胸を張れる仕事では無い。
例えそれが女房、子供を必死に養う

彼なりの生き様だとしてもだ。
だがマスクを脱いだ彼は、

僕にとって胸を張るのに十分足る奴だ。
それは無数の敗北を

背負い続けてゆかねばならぬものであればこそ
初めて纏う事が出来る、
そんな種類の優しさを

彼が持っているからなのだと思う。
つい先日も僕では無く彼が、
酔っ払いに絡まれた女性を何躊躇う事無く、

助けに入った。
それは、常勝無敗が宿命である

僕よりもずっと速く、そして潔かった。
そして彼は、万年ヤラレ役の

ショッカー戦闘員である。
長年培った所作が体の芯にまで

しっかりと染み込んでいるのだ。
彼は酔っ払いの振り回した拳に

対峙するや否や身を交わすよりもむしろ、
素早く自分のあごをカウンターで

おじさんの拳に合わせるという
非常に特殊な技術を用いて鋭くヒットさせ
小気味良い程にもんどりをうって

倒れ込んでみせたのだ。
しかも倒れ際に周りの人々が

ギクっとする程の大きな声で
『イィーッ!』
と、ショッカー戦闘員特有の

奇声を発したのだった。
それを聞いた酔っ払いのおじさんは、

日々のこびりついた疲れを忘れ
助けてもらった女性は、

この世界がまだ終わっていない事を胸に刻み
お互いその場を立ち去っていったのだった。
僕はユラユラと立ち上がる彼の肩を叩き、

大丈夫かよと尋ねると。
よう。おれはショッカー戦闘員だぜ。
あんな酔っ払いのヘナチョコパンチ

痛くも痒くもないさと強がって答えた。
僕は彼の前歯が完全に

へんてこな角度に曲がってるのに気付いたが
あえて気付かない振りをして、

じゃあ飲みにいこうぜと軽く肩を叩いた。
ああ。そうだな。
しかしお前よ、そんなに心配してくれるなら

普段のキックとパンチを
もう少し加減してくれねえかなあと

肩をすくめて笑った。
ああ、そうだな。次からは気をつけるよ。
と、僕は腰の変身ベルトに親指をかけながら

ニヤリと返した。
本来、このベルトはYのような奴の腰にこそ、
巻かれるに相応しいものなのだろうと思う。
もしもこの世界に

正義も悪も存在しなくなるのならば
僕は、これ見よがしにでかいこのベルトを外し
彼は、悲しいほどに汗臭いマスクを脱ぎ去って
生まれたてのような嘘の無い笑顔を取り戻し
そして心の底から笑い合う事が出来るのだろう。
そんな世界がいつか訪れるよう、
僕は、彼とでは無く。
彼は、僕とでは無く。
どこまでも自分自身と戦い続けてゆくのだった。

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