リハビリつれづれ 11

 この後患者さん三人のリハビリを終えて昼休憩となった。
 休憩室に入り弁当を温めようとすると、先に弁当を温めていた詩織がちょうど電子レンジから弁当を出すところであった。
「あれ、詩織の弁当今日小さくない?それで足りるの?」
「足りるか足りないかじゃないの。これで足らせてるの。」
「そうなんだ。あっ、このクッキー食べる?」
 私はテーブルの上に置いてあったリハ医の中山先生が買ってきてくださったお土産を一つ取り出した。
「ほんっとに嫌味なやつだね。女は男と違って頑張らなきゃいけないことがいっぱいあるのよ。」
「別にこの北海道クッキー一個を頑張って我慢する必要ないと思うけど。」
「そんなんだからモテないんだよ。とりあえず髪型ソフトモヒカンにした方がいいんじゃない?」
「いやだよ。高身長イケメンにはソフトモヒカンは似合わないから。」
「あと二十センチ身長伸ばしてから高身長って言葉使って。」
「もう成長期終わってるんだけど。」
「あら残念。そしたらソフトモヒカンで二十センチ身長伸ばせばいいんじゃない?」
「だからソフモヒは嫌なんだって。」
 そこに豪先輩も休憩室に入ってきた。
「お疲れ様ですー。なんだ正人、俺と一緒の髪型は嫌なのか?」
「いや、先輩と一緒の髪型が嫌なのではなくて私の顔にソフトモヒカンが似合わないから嫌なんです。」
「それは違うぞ正人。ソフモヒに似合わない顔なんてないんだから。なぜならソフモヒにすると顔の方がソフモヒに合わせて凛々しい顔になってくるんだからな。」
 豪先輩らしいよくわからない強引な理屈に私はついていけない。詩織はこの強引な理屈に正論で攻める。
「そしたらソフモヒじゃなくても今はやりのかっこいい髪型にすれば顔の方も凛々しくてかっこいい顔になるんじゃないですか?」
「いやそれは違う。顔が凛々しくなるのはソフモヒだけの効果なんだよな。」
 豪先輩はこれ以上の反論は受け付けないと不敵な笑みを浮かべながら私の弁当を電子レンジから出し、弁当を温める。もしかしたら豪先輩のソフトモヒカンにはどんな理論でもゴリ押しすることが出来る力があるのかもしれない。
 詩織は小さな弁当を食べ終えた後、スティックタイプの栄養補助食品を食べながら豪先輩に話しかけた。
「武井先輩から教えてもらったこのプロテインバー美味しいですね。私、抹茶味好きなんですよ。」
「それ食べやすいよな。タンパク質15g入ってるし。やっぱりただの抹茶味じゃなくてマッチョ抹茶味ってのが美味しさの秘訣だと思うんだよな。」
「そうですね。」
 詩織は適当な相槌を打つ。そこに私は最後の反撃に出る。
「詩織はそれ食べれるんだったら、クッキー一個食べれるんじゃない?」
「私は計画的に食事制限してるの。髪の毛てきとーな計画性のない人は取りあえず黙って。」
 ぐうの音もでなかった。私の舌が回らないのか、もしくは詩織の舌がよく回るのか、もしくはその両方なのかは分からないが、私は詩織が休憩室を出てから手に持っている北海道クッキーを食べることにした。
 そしてもう一つ気づいたことがある。お腹を空かせている女性はそのストレスを抱えているので安易に刺激するとそのストレスをぶつけられやすいということである。

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