ロシアのフェイクアカウントについて その57:東洋経済 ONLINE/的場昭弘

【概要】

神奈川大学経済学部教授です。カール・マルクスの資本論に関する解説書が評判が良いようです。1981年にザグレブ大学(現クロアチア/当時ユーゴスラビア)に留学した経験があるそうです。

今回は以下の2本の記事にコメントします。

1:ロシアとウクライナが「こじれた」複雑すぎる経緯 (2022/02/25)
2:冷静に見て、ウクライナ戦争は来年どうなるのか (2022/12/29)

【1本目】

<的場氏の主張①>
第二次世界大戦では、ソ連はヒトラーのバルバロッサ作戦(1941年)によるソ連侵入によって、大きな被害を受ける。(中略)とはいえ、ウクライナの人口の多くはロシア語を話すロシア人であった。

<私のコメント①>
「アイデンティティが曖昧であった」という指摘はあります。しかし、「ウクライナの人口の多くはロシア語を話すロシア人であった」という文章は日本語になっていません。「ウクライナの人口の多くはロシア語を話すウクライナ人であった」なら、理解できます。

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<的場氏の主張②>
ウクライナは、2014年の「マイダン」のクーデターで、ロシアと対立する資産家ポロシェンコが、大統領ヤヌコヴィッチをロシアに追放し、親米政権を創る。

<私のコメント②>
2014年に発生したマイダンでの出来事は、クーデターではなく革命です。軍部は動いていませんし、憲法停止等も発生していません。ヤヌコヴィッチ大統領(当時)が逃亡し、職務放棄により失職しています。ヤヌコヴィッチ政権を崩壊に追い込んだのは広場の人々です。その後に実施された選挙でポロシェンコが大統領に選ばれました。

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<的場氏の主張③>
ロシアは東部に軍隊を送り、その結果、ウクライナの中にロシアに近いルガンスク共和国とドネツク共和国が生まれたが、これをウクライナも西側も国として承認していない。

<私のコメント③>
独立国家に勝手に軍隊を送り込んではいけませんが、ロシアは勝手に軍隊を送り込みました。その上、勝手に軍隊を送り込んだ事実を認めてようとしませんでした。この振る舞いは「覆面介入」と表現されています。プーチン政権によるこの嘘を指摘せずにあいまいなままに放置してきたことが、今回の侵略に対する国際社会の混乱を引き起こしています。

2014年~2022年02月20日までウクライナの東部分離主義勢力(戦力の実態はロシア軍)は勝手に独立を宣言してルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国を自称していましたが、国際社会では認知されていませんでした。これは、ウクライナがNATOに加盟することを防ぐためにロシアが意図的に継続した低強度紛争です。

その後、ロシアは2022年02月21日に2つの共和国の独立を承認しましたが、やはり国際的には承認されていません。さらにロシアは「住民投票を経て2022年10月05日にロシアに編入した」と主張しましたが、同様に国際的には承認されていません。

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<的場氏の主張④>
そもそもウクライナはヨーロッパに属するのだが、EUには軍事組織がない。あるのはNATOである。ソ連時代はワルシャワ条約機構があり、それが東欧を束ねていたのだが、今ではNATOが束ねている。しかし、ウクライナがこれに入るとなると、ロシアはNATOに包囲されることになる。

<私のコメント④>
プーチンは「NATOの東方拡大がロシアによるウクライナ侵略を招いた」と国際社会に見せたいようです。そして、的場氏はこの嘘を真に受けています。

ロシアが占領地で市民に対する暴行や虐殺を繰り返し、市民を標的にした爆撃やミサイル攻撃を繰り返すのは、「核保有国と核非保有国が戦っているから、ロシアの市民がウクライナ軍の標的にされることはない」と考えているためです。「NATOの東方拡大に危機を感じたのでウクライナを侵略してしまった」などという馬鹿馬鹿しい嘘を真に受ける必要はありません。さらなる反論はこちらを参照願います。

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<的場氏の主張⑤>
ロシアは、それがスラブ精神と相容れないのならば、望むべくは巨大な中央集権的国家であることを辞めるべきであろう。それと同時に、ウクライナも小さなルガンスクやドネツク共和国を認めるべきであろう。

<私のコメント⑤>
東部ドンバス地方でもマイダン革命後に親マイダン派と親ロシア派で意見が分かれたようですが、当初はデモによる民主的な対立だったようです。これに覆面介入し、さらに偽旗作戦で混乱させ双方の憎悪を煽ったのがプーチン政権です。的場氏はプーチン政権の悪質さを理解していません。さらなる反論はこちらです。

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<的場氏の主張⑥>
やはり、歴史的にも、地理的にもウクライナは、ロシア=スラブという環境の中で生きていくしかないだろう。

<私のコメント⑥>
「ウクライナの民主主義は制限されるべき」との主張になります。随分勝手な意見ですね。ロシア軍の実力を過剰評価したようですね。2022年12月時点で言えば、プーチン政権の横暴に対する譲歩を主張する人は減っています。

【2本目】

<的場氏の主張①>
太平洋戦争末期、毎夜の空襲警報の最中、人々はラジオから流れる「わが軍大勝利」の報を聞きながら、本当に勝利を確信していたのだろうか。今、キーウ(キエフ)は大量のミサイル攻撃でインフラが壊滅的状況にある。その中で、彼らはウクライナ戦争の継続と勝利を本当に信じているのだろうか。

<私のコメント①>
他人事のような言動ですね。ウクライナの自衛戦争に対する国際社会の支持/支援が続き、ロシアに対する経済制裁が強化されれば、ウクライナは勝てます。

ウクライナは国際法の根底にある世界平和の理念に則って行動してきています。自衛戦力を整備し、自衛戦争の範囲で戦っています。国際社会はウクライナの信頼に応える必要があります。

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<的場氏の主張②>
ウクライナ軍は戦略上きわめて重要な基地、ドネツクのバフムートでロシア軍の猛攻で崩壊する可能性が高い。交通の要衝であるこの地を失えば、フロントの状況は一変し、戦争は一気にウクライナにとって不利になるかもしれない。(中略)ロシアは、2023年早々にも行われるとされる猛攻に向けて、フロントラインに70万人を超える軍隊を配置しているという噂もある。

<私のコメント②>
「これが2022年12月29日時点の的場昭弘氏の予想」ということで、了解。

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<的場氏の主張③>
少なくともこの戦争は、ソ連崩壊後独立した旧ソ連地域が、ロシアから完全に離れられるかどうかという問題に発端にあった。

<私のコメント③>
ロシアのウクライナ侵略は、離れて行こうとする元彼女に対して暴力をふるう男に例えられていますね。本当に見苦しい、、、を通り越して本当に気色悪い。異常に暴力的で残虐で醜悪です。書けないようなことが行われています。

「NATOの東方拡大がプーチンによるウクライナ侵略の原因」とする馬鹿馬鹿しい嘘に対する反論は、こちら

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<的場氏の主張④>
軍事問題となると、よりいっそう複雑である。東ドイツでは、ソ連軍の全面撤退というシナリオが施行されたが、核基地をもっていたウクライナは簡単にはいかなかった。ウクライナは核を持たない国となり、ソ連の施設は撤収されるが、ウクライナがロシアにとって重要な要衝であることは変わりがなかった。それは黒海への軍港がそこにあるからである。

<私のコメント④>
的場氏は「ロシアは領土(クリミア)が欲しいから獲りに行った」としか言っていません。力による変更は認められません。こういうやり方が通用する国際社会を作ってはいけません。的場氏は平和を維持するために国際法が整備されていることを理解していません。

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<的場氏の主張⑤>
一方で、ウクライナ政府がウクライナ語以外を認めない政策をとったことが、大きな反対運動を起こしたことについては、あまり言及されていない。

<私のコメント⑤>
的場氏は「ロシア語話者が弾圧されている」というプーチンの嘘を真に受けたようですね。反論はこちら

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<的場氏の主張⑥>
元スイス軍の職員で平和維持活動に従事した、ジャック・ボーの『オペレーションZ』(Jacques Baud,Operation Z,Max Milo,2022)は、この問題をウクライナ戦争のもっとも重要な要因だとして詳しく取り上げている。彼には、『フェイクニュースに支配される』(Gouverner par Fake News,2020)という書物もあり、西側の一方的な情報操作に極めて批判的だ。

<私のコメント⑥>
ジャック・ボーがフェイクニュースの発信源です。ロシアのフェイクアカウントが盛んに引用しています。ロシアに買収されているとしか思えない人物です。日本向けにはフェイクアカウントのタマホイが紹介していました。

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<的場氏の主張⑦>
これらの集団はネオナチともいわれているが、彼らの攻撃のターゲットはロシア人だけではない。ウクライナ人よりも劣ると目されているユダヤ人も含めたさまざまな少数民族も攻撃に対象になっているのだ。アゾフ軍団で有名になったアンドリー・ブリツキーは、「当面の、わが民族の歴史的使命は、生き残りをかけた最終的十字軍に白色人種を送り込むことだ」(前掲書54ページ)と述べたとも言われている。

<私のコメント⑦>
人類に共通して、外国からの脅威に直面した際に、国家のアイデンティティを探り脅威の排除を試みる動きが発生します。

日本の明治維新も尊王攘夷論者達が主導しました。その尊王攘夷論者達は、明治政府成立後に開国路線を歩みました。2023年時点で明治政府を「ナチ政権だった」とみなす人はいないと思います。

アゾフ連隊の前身は、東部ドンバス紛争においてロシアの覆面介入に対抗した民兵組織です。民兵組織設立当時には物議を醸す言動を展開する人物も参加していたようですが、ウクライナ内務省指揮下の国家親衛隊に統合されて以降は政治色は除かれているそうです。反論はこちら

また政治の世界においても極右政党の得票率は3%以下だそうです。「アゾフはナチ。ウクライナはナチ。」と連呼する言動は、「明治政府はナチ」と言い張るのと同じくらい馬鹿馬鹿しい嘘です。

プーチン政権は侵略の口実に「非ナチ化」を掲げましたが、ウクライナ側は反論済みです。更に言うと、東部ドンバス紛争に覆面介入した集団には、ロシアのネオナチが含まれていたそうです(こちら)。嘘に嘘を重ねるのがプーチンのやり方です。

的場氏はロシアのネオナチに触れずにウクライナのネオナチに言及しています。これはプーチン政権のプロパガンダに対する協力です。問題点はこちら

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<的場氏の主張⑧>
1699年、17世紀最後に結ばれたカルロヴィッツ条約(当時のオスマン帝国とヨーロッパ諸国との間に結ばれた講和条約。オスマン側が初めて、ヨーロッパに領土を割譲することになった)以後、西側の東進は長く続いている。それを資本の文明化作用、人権と民主主義の拡大という美名で呼ぶかは別として、東欧・ロシア地域を混乱に陥れていることは変わりがない。

<私のコメント⑧>
なぜ突然トルコの話が出てくるのか分かりません。

自由・人権・法の支配・民主主義は人類が共有する普遍的な理念です。「プーチンとその取り巻きが豪勢に暮らし、国民が動員されて錆びたライフルを手に戦場へ向かう。それがロシアのあるべき姿である。」と言いたいのでしょうか?ロシア人が納得するでしょうか?

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<的場氏の主張⑨>
GDPの規模からから見て、ウクライナ単体でのロシアへの勝ち目はない。だからウクライナは西側を引き込むしかない。しかし、そうなると世界大戦とまではいかなくとも東欧を巻き込むことになる。それは東欧諸国がもっとも恐れていることだ。

<私のコメント⑨>
そもそも専守防衛のスタンスをウクライナが堅持している時点でウクライナに不利です。ロシアは民間インフラや産業基盤を攻撃しますが、ウクライナはロシア国内の民間人/民間施設への攻撃を自制しています。

核保有国と核非保有国が戦っているからこのようなアンフェアな状況が生じているわけで、この状況を放置するならばNPT(核不拡散条約)への信頼は消えうせます。

ウクライナは国際平和の理念に沿って自衛戦争の範囲で軍備を装備し、自衛戦争の範囲で戦っています。国際社会はウクライナの信頼に応える必要があります。

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<的場氏の主張⑩>
とにかく急がれることは、停戦合意だろう。ただし、すでにロシアに併合された地域を取り戻すことは不可能だろう。ドニエプル側の西を維持すること、そして、ウクライナをNATOのミサイル基地にせず、中立の緩衝地帯にすることであろう。そうでないとすると、ロシアからの全面攻撃を受け、ウクライナは破壊されつくすかもしれない。一方で、NATOが支援し続ければ第3次世界大戦になるかもしれない。とにかく難しい問題だ。ウクライナ国民は、国土と国民の破壊から国を守らねばならない。その意味でも、虚勢をはらず、大国に翻弄されることなく、停戦へと進む勇気を見せる時かもしれない。

<私のコメント⑩>
「嘘でもなんでもいいから口実を作って軍事行動を起こし、占領地を広げ、後から何を言われても返さない」というのがプーチンのやり方です。侵略開始前よりも占領地が広がった状況で停戦を勧める主張は、プーチンに対するアシストです。

チェチェン、クリミア、ドンバス、シリアでプーチンに甘い対応をしてきたことが、プーチンの増長を招きました。的場昭弘氏は反省していません。

「力による現状の変更が通用した」との実績を作るわけにはいきません。日本の隣にも権力の座から降りられなくなった独裁者がいます。習近平がプーチンのマネをしたら、日本が危険に晒されます。

国際平和を維持するために国際法が整備されています。国際社会に安定と調和をもたらすためには、プーチン政権関係者を逮捕して国際法廷で裁く必要があります。実績を積み重ねることにより、人類に自由・民主主義・法の支配・人権の理念を浸透させてゆくことができます。

【まとめ】

的場昭弘氏はプーチンの嘘を見抜けておらず、プーチンのプロパガンダを拡散させています。プーチンの増長を招いた今までの国際社会の甘い対応についても、考慮できていません。国際法の基盤である平和の理念を理解していません。

更に、即時停戦の仲介を主張しプーチンのメンツを立てようとしています。発想が理解できません。「国際社会において力による現状の変更が通用した」との実績を作りたいのでしょうか?日本を危険に晒したいのでしょうか?

単純に考慮が足りていないのか、何らかの利益誘導を受けているのか、現時点で不明です。

【補足1】

<概要>
2023年01月04日に神奈川大学にメールで問い合わせました。「的場昭弘氏の言動は不適切。大学教授として不適任では?」という内容です。

<タイトル>
神奈川大学/経済学部/経済学科/現代ビジネス学科的場昭弘氏の言動について

<文面>
神奈川大学
人事課
お問い合わせ窓口ご担当者様

突然のメール、失礼いたします。
坂東太郎(仮名)と申します。

神奈川大学/経済学部/経済学科/現代ビジネス学科的場昭弘氏の言動について、質問です。

的場氏は2022年02月25日と2022年12月29日に東洋経済ONLINEに記事を投稿されています。

以下の点で、内容が不適切です。
 ・プーチンの嘘を見抜けていない
 ・プーチンのプロパガンダを拡散させている
 ・プーチンを増長させた原因について考察できていない
 ・国際法の基盤である平和の理念を理解していない
 ・日本を危険に晒す言動である

的場氏の言動に対する私からの反論は以下に掲示しております。
https://note.com/rightview77/n/n132119e01bcf

「言論の自由には範囲がある」という問題提起については、こちらを参照願います。
https://note.com/rightview77/n/n257ae4aa61a7

プーチン政権による、テレビを通じたロシア国民の洗脳は時間をかけて行われています。多くの人が指摘しています。
https://www.asahi.com/articles/ASQDT23CBQD9UHBI00Q.html

ロシア人とウクライナ人は、本来殺し合う必要がありません。プーチンの馬鹿馬鹿しい嘘を拡散させる言動は、広義で「殺人教唆に近い」と思います。

大学教授として不適任ではないでしょうか。ご検討をお願いいたします。

坂東 太郎

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