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壮絶なる小説体験の数日間。村上龍「半島を出よ」

北朝鮮コマンド9名が福岡に上陸し、パ・リーグ開幕戦を迎えた福岡ドームを占拠。
金正日独裁体制に反対し、共和国の平和、国民の幸福、朝鮮の統一を願う北朝鮮反乱軍であると、宣言する。
さらには500名近い反乱軍同士を乗せた複葉機30機が福岡市に飛来し、野営地を築き、「高麗遠征軍」と名乗る。

本当に独立を目指す反乱軍なのか、日本占領を目論むテロではないのか、さあ、どうなる?

と、簡単に言ってしまえばシミュレーション小説なんだけど、そこはさすがの村上龍。


膨大な参考資料に裏打ちされたディテールの緻密さ、
一度体験してから書いたんじゃないかと思えるほどの恐怖と破壊の描写、
すべての登場人物に均等に割り当てられたキャラクター造形(特に高麗遠征軍ひとりひとりのバックボーン、思想の根拠、価値観の造形はどれだけの取材に基づいてんだ、と圧倒されます)。


これらがフルに書き込まれているから上下巻1000ページを超えるボリュームになっているわけだけど、その書き込みの詳細さがシミューレーションを絵空事に思わせることなく、リアリティあふれるものとして響かせてくれるわけです。


とにかく、
リアルで破壊的で、腹立たしくも悲しくも有り、ああ日本て国は、の諦めもあり、ディテールのひとつひとつに息を漏らし、そして最後には泣ける、青春小説の一面が覗き見できる、壮絶なる小説体験でした。


さらになにより爽快なのは、この物語を終息させたのが誰で、どうやって、が謎のまま小説世界が幕を閉じるということです。謎というのは未解決という意味ではありません。解決はします。

ただ、登場人物のほんの数名と小説を読む私たち読者以外、巻き込まれてしまった日本国民だれもがどうして終りを迎えた、を知らないまま世界は新たな道を歩み始めるのです。

また近いうちに読み返そうと思わざるを得ない大傑作でございます。

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