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フジロックに縁のないおっさん、歌舞伎町で迷子になる

週末ごとに訪れる台風に悩まされていた2018年夏、おっさんたちはこんな会話を交わしていた。

「今週末もまた台風だね」
「逆走して上陸するパターンらしいよ」
「週末のイベント大丈夫かな」
「隅田川の花火大会は延期らしい」
「もう?決めるの早いね」
「そういえば週末フジロックあるけど直撃じゃない。どうすんのかな」
「ホントですね〜」

逆走というパターン違いの台風に気を取られスルーしてしまったけれど、なにかが引っかかるこの会話。

フジロック…直撃…フジロック…直撃…直撃?
しないぞぉ。

人はなぜか実体よりも表層に引っぱられてしまう。

この会話での犯人ははっきりしている。フジロックだ。
フェスにあまり興味のない者からしたら、フジロックのフジは富士であろうとの思い込みがあって、当然富士山周辺で開催されるものと疑いもしない。

しかし、東京ディズニーランドが千葉の浦安であるように、フジロックの会場は富士山周辺ではなぁい。新潟県苗場スキー場である。
初年度はたしかに富士山麓が会場だったが、それ以降は苗場でフジロックなのだ。


以前、というか、もう昔といっていいほどの昭和の時代、歌舞伎にハマった時期がありました。
歌舞伎といっても、ピンポイントで市川猿之助です。
(ちょっとややこしいのですが、いまちょっと話題の四代目猿之助ではなく先代、つまり宙乗りとかケレンとかのスーパー歌舞伎とか呼ばれていた、三代目市川猿之助 今の二代目市川猿翁の、歌舞伎。)

当時の猿之助の宙乗り、ケレンといったスーパー歌舞伎が楽しくって面白くって、毎年(今はなき地元名古屋の)中日劇場へ出かけてました。
宙乗りをする猿之助から滴り落ちる汗を受け止めては「おもれえな〜」と感激したものです。

そんな時分のある日、東京へ遊びに出かけました。そうだ、せっかく東京にいるのだったら本場歌舞伎座で歌舞伎を観ようと思い立ったのです。歌舞伎鑑賞には一幕だけ安い料金で観ることができる幕見席というのがあり、それで観ようとなりました。

ときは、ネットもスマホもケータイさえもなかった時代。
東京の街なかで、その日歌舞伎座でどんな演目が行われているかを知る手段もなく、本屋で<ぴあ>を立ち読みする気にもならず、ま、とりあえず行けばなにかやってるでしょと、のほほんな思いで歌舞伎座へと向かいました。

テレビで見た記憶の歌舞伎座はたしか大通りに面していたなぁ。
特徴的な建物だからすぐにわかるだろう。
こっちかなあっちかな。と歩きまわってもそれらしい建物に出会えません。
おかしいなぁ。
しかたない、誰かに尋ねてみるか。


「あのぉ、歌舞伎座を探してるんですが」


名古屋の町でいきなりスワヒリ語で話しかけられたら自分も多分こんな顔するんだろうな、というような表情で、その人は教えてくれました。


「歌舞伎座…歌舞伎座は銀座ですよ。ここは新宿ですが」

ここは新宿歌舞伎町。
そうなのだ。さっきからずっと新宿の歌舞伎町で歌舞伎座を探していたのだ。

歌舞伎座があるから歌舞伎町。
歌舞伎町だから歌舞伎座。
歌舞伎座は歌舞伎町にある!
なのになぜ、歌舞伎座がないのに歌舞伎町を名乗る。
「志摩スペイン村」よりも巧妙なトラップに引っかかってしまった。


バブルの頃、
ビリヤード台のあるバーやカフェを「プールバー」と呼んだ。
若ぶったオヤジが行き「あれ、プールないじゃん」というと大恥となる。

名前はこわいぞ〜名前に引っぱられると困ったことになるぞ〜

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