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その指先が世界を変えるかもしれないからそろそろ席を譲ってあげよう

押しボタン式信号のある歩道でボタンを押して信号が変わるのを待っていた。
そこへ、ヘルメットを被った、小学校低学年らしき少年が自転車に乗ってやってきた。
少年は自転車にまたがったまま両足を小刻みに動かしながら、押しボタン機の前に立っている私の前に割り込んできた。少し体が車道にはみ出している。

なにをしようとしているかと見ていると、少年は短い腕を、押しボタンに向かって伸ばした。

「もうボタン押したよ」と教えてあげるが、腕は伸び続ける。

邪魔だろうと一步うしろに下がり、スペースを空けてあげた。
少年は人差し指を伸ばし、ボタンを押した。

「押したかったんだ」と問うと、少年は誇らしげな顔でうなづいた。

信号、バスの降車、切符売り場、エレベータ、自動販売機、パソコンのエンターキー…今やそのボタンやスイッチを押すことになんの興奮も緊張もすることはないけれど、少年にとってのそれらは、ちょっとした世界を変えるボタンやスイッチなんだ。

すぐに信号は変わりクルマは止まった。
少年は自転車を漕ぎ出した。

彼の小さな指先が確かに小さな世界を変えた。

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