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私の美(39)「雪と桜」

 生きていると、何と呼べば良いのか、言葉がすぐには出て来ない「美」に出会うことがあります。2020年3月29日の大雪の東京の朝、満開の桜に降り積もった雪がまさしくそれでした。雪桜とでも呼びたいところですが、雪桜は彼岸桜のことだったはずなので、雪桜とも呼べません。
 とはいえ、満開の桜に大雪という情景に出会ったのは人生で初めてだったので、創造を超えた不可思議なその情景に私は魅了されました。しかも、世の中は、新型コロ●禍であたふたし始めた心寒い日々だったので、この情景は心深く刺さりました。
 日常生活のなかで、一所懸命に不可思議なことを探してしまうと、どこかにワザとらしさがつきまとってしまいます。あくまで、「お!」という感じの驚きこそ、美しさを感じる瞬間なのかもしれませんね。
 偶然の美、驚きの美として、雪と桜は、私の日常生活に突然現れたわけです。
 春のお別れの季節にちらちらと降る「なごり雪」も良いもので、どこか寂しさをまといながらも来る春を見つめる希望の光があります。
 桜満開の季節の大雪の心象風景は、「なごり雪」がはらむ切なさはありませんでした。自然界のネジが狂ったようなとでも言えば良いのか、2020年春以降現在まで続く新型コロ●狂想曲を暗示していたのかもしれません。
 大雪と満開の桜というインバランスな風景は、昨日までの日々が明日も同じくあると無前提に信じて安穏と暮らす人間への、自然界の警告だったのかもしれません。
 アリストテレスの「詩学(ポエティカ)」に、驚きは創造力の源泉とあったかと思いますが、時に自然は人智を超えた創造力を発揮するようです。
中嶋雷太

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