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私の好きな映画のシーン(7)

 昨夜、夢うつつに『七人の侍』のラストシーンを思い出していました。「勝ったのは我々ではない。農民たちだ」と浪人たちを率いる島田勘兵衛(志村喬)がボソリと語ります。昭和40年(1965年)ごろ、白黒テレビで、幼稚園児だった私は父と一緒に観ていたはずです。資料を見れば207分の映画。テレビ用に編集されていたかもしれませんし、前編・後編二週に分けて放送されていたのかもしれませんが、幼稚園児が3時間27分の映画を楽しんでいたのかと考えると、『七人の侍』という映画はとてつもない魅力に溢れた娯楽作品でもあったのでしょう。その後、何度も観たはずですが、私の記憶に鮮明に残っているのは、「勝ったのは我々ではない。農民たちだ」という台詞だけです。そして、刀を突き立てた四つの墓。「敗れた者の美学」と安易な言葉でまとめて語れば気楽でしょうが、そんな机上の言葉など寄せつけぬものがあります。1954年(昭和29年)に劇場公開された『七人の侍』を劇場で観た人々がすべて戦争(戦場)体験者だったことを考えると、その子供たちの一人である私は、これからも『七人の侍』を観て、何かを咀嚼し発酵させ続けるのだと思います。1961年には、リメイク版『荒野の七人』が日本で劇場公開されました。幼稚園児だった私は、おそらく、同時期にこの二作品をテレビで観ていたはずで、「リメイク」という概念など持ち合わせることなく、バーンスタインの快活な音楽に魅せられていました。家に映画音楽のレコードが何十枚もあり、よく聴いていたのもあります。「映画は観客の心に宿って、初めて生命を与えられる」のだと、改めて感じています。中嶋雷太

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