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ワードローブの森の中から(30)「気楽な旅装」

 年々、旅に出ると旅装にこだわらなくなってきました。もちろん、真夏の海辺や真冬の雪の中の場合は、それなりに必要不可欠な旅装もキャリーケースに忍ばせますが、基本的には肩肘張らぬシンプルな旅装です。
 毎年12月は、墓参の為に実家の墓がある京都に戻っています。今回は、墓参ついでにある作品の取材を兼ねての旅になりましたが、なるべくシンプルな旅装を選んで東京の自宅を後にしました。ダンガリーシャツの上にフリース。下はスリムのデニムにショート・ブーツ。アウターはダウンコート。それだけです。特に気をてらうこともなく、とは言えだらしなくもなく、東京での日常生活をそのままスライドさせた感じです。
 生まれてから25歳になるまで京都の実家に住んでいたので、京都旅行となると、さらにカジュアル度が増しているようにも思います。旅先の街の空気感に慣れているか否かということなのかもしれません。
 2000年代初頭、仕事でロサンゼルスに住んでいたのですが、ロサンゼルスに出張で行くのと、ニューヨークとでは、まったく感覚が異なります。ロサンゼルスだと、LAX空港に到着しレンタカーで通りに出るやLAX周辺の殺伐とした街感が凄く身近なものになり、セプルベダ通りを北上してオリンピック通りを東に曲がるやいなやロサンゼルスで生活していたころの私に戻ります。ホテルに到着して着替えれば、すでに私はロサンゼルス在住者と化します。ニューヨークだと、どうしても気構えます。空気感の慣れ不慣れは、そのまま旅装にも現れてくるようです。
 20代から30代は、どうしたものかなとあれこれ考えていたフシがあります。旅先の人にとっては、私などどうでも良いわけですし、興味があるわけがないのに、どこか、肩肘張った旅装になっていたように思います。なるべくなら、国内外どの街に行っても気楽な旅装でいたいものですが、その街の慣れ不慣れ感はどこかしらに現れて来るようです。
 写真は、スペインのバルセロナの北東100キロほどのところにあるジローナという街の細い路地です。ローマ時代に築かれた要塞跡があり、城壁が旧市街を囲み、中世の建築が数々残っている静かな街です。人の姿が少なくなった夜、この街のワインバーでワインを楽しんだあと、暗闇宿す石畳を革靴でコツコツ音を立てて歩いたことがあります。仕事で訪ねたのでスーツ姿でしたが、いつの日にか、気楽な旅装でジローナを訪れたいと考えています。ただ、気楽な旅装といっても、あの中世の石畳をコツコツと革靴で歩きたいので、底がしっかりした革の革靴から旅装を考えねばなりません。中嶋雷太

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