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ワードローブの森の中から(15)「タキシード」

 レンタルではなく、自分のタキシードを初めて買ったのは2000年でした。アカデミー賞授賞式に招待され、当時住んでいたロサンゼルスのセンチュリー・シティーのモールにあったブルックス・ブラザーズに行き、親切な店員さんのアドバイスを聞きながら採寸してもらったのを昨日のことのように覚えています。それから毎年、アカデミー賞授賞式が近づくと、ワードローブから取り出しては、「またお世話になるな」と一年の速さに驚きつつ、タキシードを着られる喜びを感じていました。
 アカデミー賞授賞式の季節はまだ寒いのですが、授賞式会場は冷房が効いていて、風邪をひきそうになります。そして、アカデミー賞授賞式後の関係者だけのパーティー、ガバナーズ・ボールの会場もかなり冷房が効いているのですが、両肩を露わにした女性たちは寒さを堪えて笑顔をたやすことなく頑張っていました。なかには、自分のタキシードのジャケットを、女性の肩にそっとかけてあげるダンディーな男性が必ずいて、格好良さがこぼれ落ちていました。
 タキシードを着ると心と身体の背筋がピシッと伸びる感じがします。L.A.在住時の日常生活ではTシャツに半パンにビーサン姿なので、この段差が特に気持ち良いわけです。髪型もオールバック気味に撫で上げるので、気合いが入ります。
 アカデミー賞授賞式や、私が長年審査員を務める国際エミー賞授賞式では、スタンダードなタキシード姿ですが、グラミー賞授賞式ではかなり崩します。下はデニムに上着はラメのタキシード姿となります。サングラスもかけたりします。テレビではなかなか映し出されませんが、会場に来る人たちは、かなり崩したファッションを楽しんでおり、スタンダードなタキシード姿だと浮いてしまいます。
 この数年、渡航することができず、ワードローブには活躍の機会を失くしたタキシードたちが眠っています。カビなど生えていなければ良いのですが……。中嶋雷太

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