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本に愛される人になりたい(22) 文部省著「文部省著作教科書・民主主義」

 日本が民主主義国家の道を歩み始めて、まだ100年も経っていません。
 前回の「本に愛される人になりたい」第21話に、佐藤忠男著「日本映画史2」から引用しましたが、戦後間もなくの東宝撮影所にやってきたGHQの担当者が民主主義的な映画を作って欲しいと話したところ、「民主主義といってもわれわれはそうした教育を受けていない。これから大いに勉強するからその時間を与えて欲しい」という発言が、現場サイドからあったといいます。
 確かに、戦後まもなくのころ、それまで民主主義の国を経験していなかった映画の現場、そして、すべての日本人にとって、民主主義とは何かなどの実感があるわけがなかったと思います。
 そうした、戦後まもなくの1946年(昭和21年)に発行されたのが、本書「文部省著作教科書・民主主義」です。いわば、日本国政府にとっての民主主義とは何かを分かりやすく噛み砕いた本だといってよいかと思います。
 当時、国民の何パーセントが民主主義とは何かを、実感を持って理解していたかと考えると、敗戦まで民主主義国家ではなかったわけですから、0パーセントだったと言って良いかと思います。書物などで西欧諸国の民主主義について学んだ人々がいたとしても、実際には誰も民主主義国で生きた経験などなかったわけです。
 本書の中で、著者(文部省)は語ります。「民主主義の反対は独裁主義である。独裁主義は権威主義ともよばれる。なぜならば、独裁主義のもとでは、上に立っている者が権威を独占して、下にある人々を思うがままに動かすからである。…あるいは公然と、あるいは隠れて、事を決し、政策を定め、法律を作る。そうして、一般の人々は、ことのよしあしにかかわらずそれに従う」と。
 まるで、近隣の某大国たちのやりようですね。民主主義を希求するのが大前提だと私は思っていますが、なかには独裁主義(権威主義)を望む人もいるようで、「民主主義なんか大嫌いだ!」という方もいらっしゃいます。自由な生き方を自ら放棄したいのだろうかと、思ったりもします。
 ま、あまり突き詰めると、ファナティックになられる方がいらっしゃると思うので、まずは、この本をゆっくり、心静かに読んでみてはと思っています。民主主義とは完成形があるわけではなく、絶えず希求し、少しずつ形にしていくようなものかもしれません。中嶋雷太

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