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悲しきガストロノームの夢想(56)「袋もしくはカップの焼きそば」

 私の好物は焼きそばです。
 ただ、焼きそばとの出会いは家庭内ではなく、縁日でした。ご存知のとおり、縁日の焼きそばは、キャベツも肉もカケラがいくつか入っているだけで、麺もモチモチではなくふにゃふにゃしているのが一般的です。
 昭和の子供にとり、1963年に発売された「日清の焼そば」は画期的で、現在のように袋麺やカップ麺文化がまだない時代でしたから、ラーメンの袋麺と並んでこの「日清の焼そば」がいつも台所にありました。ちなみに、この「日清の焼そば」もあの安藤百福さんが開発したようです。
 フライパンでお湯をくつくつ沸かし、そこに袋麺を投入してふやかします。水分が飛べば、粉のソースを振りかけ混ぜて完成。どう考えても「焼いて」はいませんから粉ソース味の混ぜ麺とでも言えば良い代物です。子供が作るので、具材なんか入れませんから、なんともジャンクな食べ物でした。それでも、水の量を少なめにしたりと、より美味しくすることを考えたものです。
 「日清の焼そば」からおよそ10年の月日を経て、カップ焼きそばの時代を迎えます。調べてみると1975年3月に我が「ペヤングソースやきそば」が発売され、1976年5月に「日清焼そばU.F.O.」が発売されます。その翌々年の1978年にピンクレディーがCMで「U.F.O.」を歌い爆発的なヒットとなり、カップ焼きそばは市民権を得たようです。
 …といった歴史の末に、各社があれこれ発売し競争し、現在に至ります。しっかり調理する為の冷蔵袋麺や冷凍袋麺も数多くスーパーなどで売られていますが、私の焼きそば愛は二極化しており、未だに「ペヤングソースやきそば」か、もしくは街の焼きそば屋さんで楽しんでいます。前者は鉄板ですが、後者はなかなか難しく、現在は東京の三軒茶屋にある、某焼きそば専門店のみを愛用しています。一時期、焼きそば屋さんがブームになり、あちこちに焼きそば専門店が開店しましたが、こだわり過ぎで値段が高く、頭を捻るようなお店ばかりが目立ちました。結果、ほぼ全滅になったようです。話はズレますが、気づけばご当地焼きそばなんかもあちらこちらで頑張っておられますが、「美味しいなぁ」と心底味わった焼きそばはあまりなく、皆さんには気を衒うことなく頑張って欲しいものです。それはご当地ビールにも感じられます。
 個人的には、外で食べる焼きそばは、王将の焼きそば(醤油味)と三軒茶屋の焼きそば屋さんに限っています。
 さてと、表題の袋もしくはカップの焼きそばです。
 袋は「日清の焼そば」、カップは「ペヤングソースやきそば」と確定してしまい、揺るぎなき二大巨頭として君臨しています。具材など入れずに、ハフハフと食べるだけですが、そこには半世紀に渡る歴史が横たわっているのです。麺があと数本になったときの、あの寒々とした気分。そして、冷えてしまったちぢれ麺をすするときの切なさは昭和の味わいがして、少し懐かしく楽しんでいます。中嶋雷太

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