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最強の剣

 「勇気とは」三人の男を前に赤毛の女が腕組みして語る。「ものおじせずに立ち向かう気力であって、その勇気をもつ者が本物の勇者だ」不遜な物言いで、さらに言葉を継ぐ。「さて、誰が本物の勇者なのかな?」
 しばしの沈黙のうち、一番ガタイの良い男が一歩前に出る。
「三人とも勇者だよ。カルシエ」女を一瞥してから仲間を振り返る。「君の声に応えてここにいる。悪魔のデフォルトを退治するために仲間と力を合わせることにしたんだ」
 彼の言葉に、あとの二人が頷く。
 カルシエは微笑みを浮かべ「フロンよ」と高らかに名を告げる。
「では、おまえが本物の勇者なのか?」
 問われて、フロンが顔を顰める。
「そう言いたいところなんだが……」そう言って腰から剣を抜く。鞘から解き放たれるや否や閃光が走り、炎が吹きあがった。魔剣『ファイヤソード』だ。「俺の剣はウォルトの水剣『ウォーターソード』を蒸発もしくは爆発させるほどの威力があるが、デルタの『マッドソード』には適わない」
 すかさず――、
 いやいやいや、と手の平を振りながらがっちりした体系のデルタが前へ出る。
「俺の剣なんて」
 デルタが剣を抜く。鞘から解き放たれた刃は剣とは言い難いものだ。とても人を傷つけるような武器には思えない。単なる泥状の棒にすぎない。
 ところが、デルタが剣を振りかざして宙を切ると、泥状の粒が一瞬にして塊り、鋼の鈍い色を照り返す。そうかと思えば砂粒の集合体と化す。変化する剣だ。
「大地の剣だからな。たしかに炎には強い。必要に応じて形も変えられるし。だけど、さすがに『ウォーターソード』には適わない。なんたって水は泥を分解しちまうんだよな。水が泥や砂の隙間に入ってしまってしまうと剣が固まらなくなる。さすがの『マッドソート』も形無しだ」
 肩を竦めるデルタの横から背の高い、ひょろりとしたウォルトが口を挟む。
「ま、そうだな」と彼も腰の剣を抜く。
 鞘からは、きらきらと光を反射する水の剣が現れる。
「私の剣は鋭く、どんな隙間にも水が入り込んで中から破壊することもできる。しかし、そうは言っても、フロンの『ファイアーソード』には勝てない。フロンの持つ剣は雷も流すから、下手するとこちらが感電してしまう」
 そして、三人が三人とも沈黙。
 はあぁ……沈黙を裂くようにカルシエが大きなため息をついた。
「あなたたち、それでも勇者なの?」
 甲高く声をあげる。
「ものおじせずに、立ち上がる人はいないの? デフォルトを倒すという気概を見せなさいよ!」
 いの一番に手をあげたのはウォルト。
「私は辞めておく。君たちの」そう言って仲間を振り返る。「剣があれば、奴を叩き潰せる」
「むりむりむり」手のひらを、ひらひらさせながらデルタが慌てて言い募る。「僕には無理。そもそも僕の剣は護りの剣だからね。攻撃用じゃない」
 ちらりと視線を頼みの綱のフロンに向ける。
「やめてくれよ」デルタの視線を断ち切ってフロンは天を仰いだ。「できるわけないじゃん。そもそも、その……ものおじせずってどうよ。ガキじゃないんだからさ。自分の力量ぐらいわかってるよ。そりゃさ、勇者として美談は残るだろうけど、それは物語の中だ。俺はリアルで生きているから命が惜しい」
 寒い時期ではないのに、一瞬にして霜に覆われたような静寂が広がる。
 その氷土を粉砕するかのようにカルシエが吠える。
「なぁにが、勇者様よ! 馬鹿なのあんたたち」
 赤毛の巻き髪を逆立て、整った顔を紅潮させて捲くしたてる。
「いい? よーく聞いて」できの悪い生徒にかみつく教師そのもの。「あいつを倒さないと、みーんな死んじゃうの。つーか、私も殺されちゃうの、わかる?」
 片方の手を腰に当て、片方で指を三人に突きつける。
「とにかく、私はヒロインなの。ヒロインを助けるのは勇者ってことになってんの!  わかった? さあ、あいつをやっつけて、私を助けてくれるのは誰?」
「あのさ……」遠慮がちに呟くフロン。「俺たち三人が集まったのは一人では無理だからだろ? 三人で力を合わせてやっつければいいじゃん」
   Codswallop――!
 カルシエの喉元からうめき声ともため息ともつかぬ声がもれる。
「どうして3人もいるのよ! 私の旦那は一人でいいの! それに仲間を相殺するような剣を振り回してどうするの?」
 意気軒高なヒロインの前に勇者たちは立ちすくむ。
 ややあって、
「そのぉ……」頭を掻きながら、デルタが申し訳なさそうに言う。「やっつけてくれる勇者様がもう一人いるじゃないですか」
 誰よ。カルシエが目で問いかける。
 デルタは伏し目がちに答えた。
「貴方がいるじゃないですか。その舌鋒なら奴もイチコロだと思う」
 

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