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反時計回りの真実

 マーケティングの世界では『反時計回り』の導線というのは常識らしい。
 左回りの法則というのは、人間は自然と反時計回りに行動してしまうこと。スーパーなどでも導線作りや商品の配置に活用されている。その理由は色々あって、左側に心臓があるから左回りになるだとか、肝臓が左にあって、もともとの体の重心は左側に寄っているからだとか、効き足が右だから利き足の右で地面を蹴れば、自然と左が軸となり左回りになるのだとか……まあ、所説あるのだが……。
「本当に面倒くさい」
 つい、ぼやいてしまう。
「食堂で食うのも面倒なのかよ。」
 昼時、セルフサービスの自社食堂の列に並んでいると、すぐ後ろに並ぶ同僚の武志が僕のぼやきに反応する。
「なんで左まわりなのかなと思ってさ」
「世の中の摂理ってもんさ。ま、どっちだってかまわないんだけどね」
「どっちだってかまわないということはないさ」二人の間に割って入ったのは、一つ先輩の佐竹。「理由があるのだろうと思うけどね。地球だって左回りだろ? 世の中左回りにできているんだよ」
「そうそう」嬉しそうに武志が相槌をうつ。「なんとなく左って、苦労せずして良いポジションをとってしまうイメージなんだよな」
「一理ある。平安時代だって左大臣の方が上だからな」
 佐竹が話を得意分野にもっていく。
「けどさ、」一転して、武志が反論しにかかる。「時間スケールでいうと、左は過去だろ? 右は未来だ」
 佐竹はそれを鼻先で一蹴して、「右手は神聖、左手は不浄」
 くだらない応酬で白けた空気になりかけたとき、
「なあに?」最後尾につけた若菜さんが笑いながら話に入る。「何、剥きになってんの?」
「いやさ」武志が答える。「慶介がさ、食堂は面倒なところだっていうから」
 いやいやいや、僕は首を振る。
「そうじゃなくて、どうして配膳の列は左回りなのかな、って思ってさ」
 若菜さんは朗らかに笑って、肩をすくめる。
「そんなの簡単じゃない。右利きの社会だからね。右手で取りやすいでしょ? このプラムだって、ね?」そう言ってスモモを右手で取る。
 左手はしっかりとトレイを掴んでいる。
 トレイの上では、酢豚がおいしそうに湯気をあげる。
「だから左回りになるのは理に適ってるじゃない」
 あ、なーるほど……。
「あ、そうか」彼女は僕に向かって申し訳なさそうにほほ笑む。「島田君は左利きだったっけ?」

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