シン・仮面ライダーを見た。

*ネタバレしまくりなので気をつけてください。

・総評

 まず前提として自分の仮面ライダー歴は、幼少の頃にテレビで放送されていた何作かを見ていた程度で、オリジナルの1号2号はもちろん現在の最新作も見ていません。
 で、結論から言うと個人的には好きでした。
 面白かったし、何なら感動さえしました。
 やはり脚本庵野だったら監督も庵野じゃないとね、と思いました。

・話の筋

 話の筋としてはシンプルです。
 SHOCKER(以後ショッカー)という人間の幸福を追求する組織のエゴイスティックな幸福の定義に反感を持った緑川父子が、自作の改造人間と共に離反して組織の壊滅を目指すという内容です。
 冒頭でショッカーの壊滅とその為に倒すべき改造人間を提示されるので、ひとまず映画のゴールが明確で、その上で主人公とヒロインの信頼関係の構築が軸として描かれていきます。その過程で各登場人物がそれぞれに葛藤やトラウマと向き合っていきます。
 シン・ウルトラマンのようなゴールが見えないとか話がごちゃごちゃしているという所と比べると自分はこちらの方が好きです。

・描かれ方の違い

 シン(エヴァ除く)・シリーズの中では自分はゴジラと仮面ライダーが楽しめました。と言っても、この二つの面白さの質は違います。
 ゴジラの方は巨大不明生物が現れた際の政府や自衛隊の対応や国外の動き、外交がどうなるかというリアリスティックなシミュレーションが中心で、人物の内面や感情を極力排した作りでした。
 一方で仮面ライダーについては、そういった政治的軍事的な動きを極力排してむしろ人物の内面に寄り添った、そこを軸にした作りでした。
 ウルトラマンについては全体的にそこが中途半端に感じました。特に、人物の内面や人間関係などが物足りなかった印象です。

・物語とテーマ

 2時間ほどの上映時間でありながら5体の改造人間と2号、そして森山未來と戦うことになるため、全体的に駆け足気味です。戦いも割とあっさり終わりますし、人間関係や人物の内面をもっと掘り下げる余地もあったようには感じます。
 例えば、蜂オーグとルリ子との関係や2号の来歴などはそうではないでしょうか。
 それでも個人的に全体を通して感動できたのはやはり本作が内面描写や関係性を軸にして描かれた作品だからとも言えます。

 兄にも、そして父に対してさえも要不要によってお互いの存在を認めている(と思っている)ヒロインを、本郷は父親由来の優しさで溶かしてゆく。心の壁一枚で隔てられた友人と呼ぶことのできない友人を、二人の間に立つ事で束の間繋いで、それによって心の声を吐露することができたヒロインは本郷の胸で泣くのである。(少なくとも表向きには)感情の無かった彼女がそれを表出させたのである。
 本郷は本郷で、自ら抱えた孤独や葛藤を、ルリ子との信頼関係や2号との和解の中で解消していくのです。父の持つ優しさや他者への気遣いを、力を行使することで発揮していったわけです。
 そしてそのルリ子が森山未來を止めるわけで。

 一人一人の固有の体が壁となり凶器となり、互いの心が見通せず、疑心や孤独を生んでしまう、そこから生まれる摩擦や悲しみを、体を消し去って心を一体にすることで解決を図る、みたいなところはエヴァンゲリオンにもあり、それをいかに超克するか、というテーマに対する庵野さんの心の変遷が見られるようで面白いです。

・見せ方

 さて、単純に各戦闘場面については尺の都合もありあっさりしている感はあるものの、それぞれに特色ある戦闘シーンで面白かったと思います。
 CGについてはスパイダーマンの質を少し落としたような感じでしたけど見る分には十分問題ないレベルで、むしろ、スパイダーマンとかハリウッドの方の映画は何でもかんでもCGで済まそうとするところ、本作はちゃんと人の体を使ったアクションが入っていてそれが良かったです。
 人の体の重みや質感のある動き、これがいいわけです。近年の(アクション)ハリウッド映画に自分が少し飽き飽きしているのは、そういうCG特有の違和感や軽さみたいなものが溢れている部分も多分にある気がします。

 あと、やはり庵野監督の独特のカットというか、絵面というか、画角というか、これがまたいい。定型的な見せ方ではない面白さみたいなものがあって面白いです。
 全体のテンポは前述した通り尺の関係もあって軽快ですし、カットの繋ぎが何というか、理数脳というか論理脳というか、例えばテンポで言うと逆シャアの富野由悠季で、カット(コンテ?)の繋ぎが北野武みたいな、要領よくズンズン進むし、この画とこの画を見せたからその間で何が起こったか分かるよね、的な見せ方とか、ともすると淡泊になるんだけど、庵野さんの場合はそこに独特のアングルや特殊効果を挟んでくるから面白い。
 キャラクターについて言えば、本作のテンポの速い展開の中でもそれぞれに特有の口癖みたいなものを持たせてキャラ立てしているのがさすがだなと思いました。

・俳優が豪華

 で、本作を見ていていちいち驚いたのが、出演俳優の豪華さ。
 松尾スズキが出てきて「マジか!」と思ったらすぐ自殺したり、市川実日子が出てきてすぐ殺されたり、出てきてすぐ殺された本郷の父親が仲村トオルだったりとか、あとスタッフロールを見ていて大森南朋はかろうじて蜘蛛オーグかなとわかるし本郷奏多はカメレオンかなとか予想できるけど、安田顕てどこに出たんだよ! とか、松坂桃李はもうわからんだろ! みたいな。
 長澤まさみは華原朋美に見えたし。まあでも長澤さんはほんとそのうち大竹しのぶみたいな変幻自在な女優になっていくかもね。

 個人的に同年代ということで出ていたら気になって見てしまう森山未來はもうあの(悪い意味でなく)ケレン味のある動きとか気怠そうな喋り方や表情とか役作り抜群で素晴らしいと思いました。
 また、もうどちらが佑でどちらが時生かわからない柄本兄弟ですが、今や欠かせない人材になっていて本作でも佑がサッパリした気っ風のいい役柄を好演していて俳優一家として素晴らしい成功を収めてますね。

・個人的感想

 ということで、本作は個人的にはかなり面白く見られました。
 もちろん、その時の体調とか好みの違いとか色々な変数で評価が変わったりするものですが、少なくともシン・ウルトラマンを見た時に比べるとかなり印象は良かったです。
 この辺、例えばゴジラとウルトラマンと仮面ライダーの特撮界隈におけるファン層の棲み分けがどうなっているのかとかは自分はわからないです。
 外から見ていて何となくウルトラマンは陽で明るい、仮面ライダーは陰でシリアス、ゴジラがその中間、みたいな感じで見てますが、とすると割とそれに沿った作り方をしているのかなという気はします。
 それぞれの好みに合った作品が見られればいいのかなと思いました。

 いずれにしても、特撮シンシリーズの最後(?)が本作で良かったと思いました。
 庵野さん、ありがとう!

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