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#10 クラウドファンディングを振り返る 後編

なぜクラウドファンディングをやるのか?資金調達以上の目的がそこにはある

以前、前編を投稿してからだいぶ間があいてしまって、
さらに世の中がいろいろ変化してしまったので、どうしようか悩みましたが
ここはいったん、今の世情はちょっと横において…
というか本質的なところはさほど変わってないはずなので、続けて書くことにします。

前回、クラウドファンディングにはあれこれお金がかかる話をしましたが、
つまり、ズバリ言ってしまうと
「ただひたすらお金を集めたいだけならクラウドファンディングはおすすめしない」ということです。
では逆に、どんな状況だとおすすめなのか?
どういうところに気をつけるといいのか??
私なりに発見したことをお伝えします。

どんな時におすすめなの?プロジェクト例をみてみよう

いろいろなクラウドファンディングのケースを見てみて、
クラウドファンディングをやる意味があるプロジェクトには、一定の条件が必要のようです。
私なりに発見したのは、だいたい以下のパターン。

その1.収益性は低いが共感を得られるプロジェクトの資金調達
その2.とにかく初期投資がかかるプロジェクトの先払い的資金調達
その3.関係人口を増やすファンマーケティング的な意図

それぞれをもう少し詳しく説明すると。

その1.収益性は低いが「共感」を得られるプロジェクトの資金調達

これぞまさしくクラウドファンディングの王道でしょう。
収益性が高い事業やプロジェクト、つまり費用対投資効果が高い事業やプロジェクトは
従来一般的に行われてきたように、金融機関に借り入れをすればいい。
もしくは、どこかの個人投資家をつかまえればいい。
おそらくクラウドファンディングに手間暇かけて数百万円を集めるよりもずっと簡単に、おそらく金利手数料のほうが安く、はるかに大金を貸してもらえると思います。(それもそんなに簡単なことではありませんが、あくまで理論上です。)

ところが、先の読めない混沌の現代、なにがヒットするのか、事業性が高いのかは誰も正確に読めません。
自分では絶対にこの事業はウケると思っても、理論だけで上手に説明できないことは増えています。
ましてや、金融機関の審査でそれを理解してもらうのはなかなか難しい。
そしてもっと大事なことは、事業の意味は、収益だけではないということです。
お金にはならないが、お金よりも大事な価値を提供する事業やプロジェクトもあっていいはずです。
そんな時に、たとえお金にならなくても、ぜひやってほしい!と共感する人がたくさんいるなら、その人たちから直接お金を集めよう、というのがクラウドファンディングというわけです。

実際にRigelの場合にも、実は以前のオーナーである順子さんがお店をはじめた際には、少額ながらも金融機関からの借り入れをしていました。
当時のお店の体制であれば、たしかにそれでも月々の返済は可能だったと思いますし、実際にできていました。
ただ、私が引き継いだ時には、これまでと同様の返済は難しいだろうと判断しました。
実際に審査に通したわけではないのでわかりませんが、
以前は順子さん自身の商品の売り上げがある程度期待できたことや、
やはり彼女の人柄や人脈によって築かれていた固定客がいたこともあり、
順子さんの商品がお店からなくなることで、店全体の収益性も縮小すると予想できたためです。

ただ、それでもRigelを続けたい。
たとえ収益性がなくても、関わっている人たちのためにも存続させたい。
そういった想いに共感してくださる方はいるだろうと思えたから、クラウドファンディングを実施しました。

他には、例えば少々マニアックな趣味嗜好の人たちのイベント開催などが典型例でしょうか。
普通、イベントというのは企画を立てたら資金を集め、開催の段取りをしてからチケットを売り出すなどして、稼ぐ、もしくはせめて資金を回収しようとします。
なので、確実にチケットが売れる=資金を回収できるという計算が立たないとなかなか開催に踏み切れません。
例えばミュージシャンなら、安定した人気のあるアーテイストやジャンルの音楽に限られます。
ただ、どれくらいいるか定かではないけれど、熱狂的なファンはいるはず!と思うなら、そのファン本人たちから直接お金をいただいて開催すればいいわけです。

仮に、私がいきなり自分の写真集を出したいとか言い出したとして、
私がもし世間で大人気のアイドルだったら、出版社が売れると見込んで投資をしてくれるでしょうが、当然そんなことは絶対にあり得ないわけで、
でももしかしたら地球上に3人くらいは私のファンがいるかもしれない場合、
その人たちが10万円づつ支援してくれたら、私としては夢の実現に近づくわけです。

さらに言えば、『all or nothing方式』にしておけば、
もし資金が集まらなかったらプロジェクト自体を中止にすることもできるので
まずはどれだけ共感を得られるか、さぐってから実施に移すこともできます。

※クラウドファンディングは
all or nothing 方式…目標額に到達しなければ不成立。それまで支援されていた分もキャンセルとなりリターンも催行されない。お金が集まったら計画実施、集まらなかったら計画中止にできるので、過剰な自己負担を負うリスクがない。一方でちょっとでもお金を集めたい場合には向かない。
all in 方式…目標額に関係なく、支援された金額は支払われ、リターンの催行もおこなう。お金が集まった分だけ確実に入金される。一方で、全然お金が集まらなくてもリターンも発生する。
なので、一定額が集まったらこのプロジェクトを実施したい!みたいな場合は前者、プロジェクトの実施はすでに確定していて、少しでもいいから支援がほしい場合は後者、ということに。

ちょっと極端の事例をあげてしまったかもしれませんが
要するに共感してくれる人たちから「直接」お金を受け取ることができるのが、クラウドファンディングの味噌です。


その2.とにかく初期投資がかかるプロジェクトの「先行販売」的資金調達

例えば、設備投資が必要なホテルなどのいわゆる装置産業や、設備投資によって大量生産(=コストダウン)が可能になる、新技術を使った商品開発などが当てはまります。

事業性が高ければ、基本的な初期投資は金融機関などから受けられるとしても、その場合、返済は、できあがった商品を顧客に売り、その売り上げから現金で行うことになります。
でも、すでに商品の完成を待っている顧客、出来上がったらぜひ泊まりたい!買いたい!という顧客がいるなら、その人から先に代金を受け取って、開発資金に当ててしまうことができるわけです。

形式としては、販売予定金額とほぼ同額の支援をしてもらい、リターンとして「泊まれる権利」や「商品そのもの」を提供します。
支援する側としては、事前予約のようなイメージなので、心理的な負担も軽くなりますし、支援を受ける側は、資金調達と同時に顧客開拓ができ、リターンの負担も軽く済みます。

特に、ホテルの開業などの際は、詳細はこむずかしくなるので割愛しますが、その事業の構造上からも、とても相性がいい仕組みだと感じます。
私自身も、何回か支援をしたことがありますし、まさに今の新型ウィルスにより旅行客がこなくなってしまった状況においても、「いつか落ち着いたら泊まりに来てください」という名目で支援(泊まれる権利)を売るケースも見受けられます。

ちなみに、サイバーエージェントが母体となっている『MAKUAKE』は、
この先行して顧客開拓できるところを強調して、いまやクラウドファンディングを「テストマーケティング」と位置付けているようです。
まずは計画段階の商品を出してみて、その反響から、今の時代にその商品が支持されるかをはかることができ、リターンで提供した商品の感想を聞いて、さらにブラッシュアップしてから市場に投入する…といった流れでしょうか。
新技術を使った商品開発のプロジェクトを数多くサポートしてきたMAKUAKEらしいように思います。


その3.関係人口を増やすファンマーケティング的な意図

これは、その1・その2にも大きく関係してくるところですが、クラウドファンディングは、いちおう定義としては「資金調達」の一種なので、支援とリターンのバランスとか、原価とかという側面を知ることは大切で、ここまで書いたことはすべて、基本的にはその視点からです。

ただ、実際にクラウドファンディングを支援したことがある人は経験があるのではないかと思いますが、支援するとき、単純にリターンがほしいから、イベントに参加したいから…といった目的だけではなく、単にお店で買い物をするのとは、同じような金額とリターンでも明らかに違う心理があったと思います。

その背景には、やはり「消費」ではなく「寄付」というベースがあることに加え
クラウドファンディングには、なぜそのプロジェクトをするのか、誰がやるのか、どんな経緯があるのか、といったことが詳細に記載されていて、さらにその募集を誰かがSNSなどでシェアし、さらに拡散し…という流れを経て、クラウドファンディングを募集していることそのものが、ひとつの記事として広がっていくのです。
言い換えれば、クラウドファンディングがメディアのような役割を果たし、広報の一環になっているわけです。
それを見て支援した人は、単に「購入」ではなく、お金を出しながら「応援」のメッセージを添えたりします。
それはすでに、単なる「消費者」ではなく、「関係者」「当事者」でありひいては、「ファン」とも言えます。

プロジェクトのなかには、そもそも資金調達の目的はほとんど度外視して、広報、メディア、関係人口づくりといった視点を主眼においていると思われるものもあります。
マーケティングの世界でも、「ファンづくり」や「消費から社会貢献への移行」は
今後の中心的な手法になっていくとされているので、そういう点でも、クラウドファンディングの果たす役割があるのだろうと思います。

一方で、クラウドファンディングを実際にやってみた側から、この部分を考えると
なかなかしんどいものだったな、というのが正直なところです。
身近で同じように実施した人も同様に「メンタルが試される」「しびれる…」という感想を漏らしていましたが、特に締め切りが近づいてくると、純粋に金額がどうなるかというよりも、自分のプロジェクトが、ひいては自分自身が、身の回りの人たちからどう評価され、共感を得られるのか試されているかのような気分にもなりますし、支援していただく人たちの「応援してます」「頑張ってください」という言葉に対して、日増しに責任を感じてしまうようにもなるのです。
金融機関からの融資であれば、そこまでお金に込められた意味を感じることはなかっただろうと思うと、おいそれとクラウドファンディングはやってはいけない…と私個人は考えてしまいます。


まとめ

やたら長文になってしまいましたが、ざっくりまとめると
・クラウドファンディングを、簡単に考えてばいけない
・やり方によっては全然資金調達なんてできない
・業種やプロジェクトによっては向いている
・これからの時代のマーケティングにおいては重要な役割を担う可能性
・でもやるには意外なほどメンタル問われます

といったところでしょうか。

Rigelにおいては、資金調達をしたいという背景がまず強かったので、
リターンの原価や経費という点では、厳しい条件であることを押して実施にいたりましたが、同時に、これからもお店に足を運んでくれるお客様を増やしたいという目的もありましたし、こういう機会を利用して、お店の背景を語れる機会を得られたのはありがたいものでした。
募集が終わった今も、募集記事はネット上に残り続けているので、最近知り合った方が記事を読んでくださることで、お店や私自身をよく知ってくれるようになったりもしています。
身近な人からの支援は、責任の重さも感じる一方で、自分へのプレッシャーにもなっている気がします。
ウィルス騒動で今は店を閉めていて、このままでは決してラクではないのですが
みすみす終わらせてしまうわけにはいかない…というモチベーションにもなっています。

だいぶ赤裸々に書きましたが、なにかの折に参考になれば幸いです。

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