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#24 リペア相談会に産地のチカラを見た
先日の8月27日・28日に当店と最近ご近所にできたお店とでイベントを開催しました。最近ご近所にできたお店というのが“活版印刷屋さん“でして、それはそれで説明しなきゃいけないんですが、今日のところはひとまず置いておいて、そのイベントのコンテンツのひとつとして、我々は「ジュエリーリペア相談会」を行いました。
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女性なら壊れたアクセサリーのひとつやふたつ持ってるよね?
これまでの営業の中で、わりと頻繁に持ち込まれるのが「以前ここで買ったピアスなんだけど片方無くしちゃって…」「毎日使うには金具がちょっと使いにくいので直してほしい」などのご相談。うちのお店で販売したものならもちろんアフターケアとして対応するのですが、ありがたいことに毎日着けてくださっているのか、無くしたりリペア依頼は思っているより多い。さらにいろんな方とジュエリーやアクセサリーについて話していると、「昔買ったネックレスがチェーンが切れたまま持ってる」とか「親からもらったもののデザインがいまいちで」といった話が頻繁に出てきます。
個人的調べでは、女性のほぼ95%が何かしら支障があって使わなくなってしまったアクセサリーを何年も引き出しにしまい込んでるはず。
ハイブランドの高級品なら、お店に相談すればなんとかしてもらえることも多いでしょうし、いっそのこと換金してしまうという選択肢もあるのですが、現実にはどこかのアクセサリーショップやアンティークショップで買ったとか、人からもらったなど、お店の窓口がもうなかったりわざわざ調べて問い合わせるのも面倒で…というケースがほとんど。そうなると、どこに相談したらよいのやら、一体いくらくらいかかるものなのやら…とアテのないまま引き出しの奥に…ということになります。置いておいて邪魔になるほどでもないのがかえってアダとなり、気づけば10年20年レベルで経過していることもザラなのでは。
私も以前はそんな1人でしたが、お店に関わるようになって産地の職人さんやデザイナーさんに相談してみると、それはもうあっという間に、しかも拍子抜けするほど安く、修理をしてもらえることがわかりました。
実際に片方なくしたピアスやメッキが剥がれたリングを直してもらった話はこちら。
今回のイベントでは、前提として「今あるものを大切にしよう」というコンセプトがあったことに加え、上述したような個人的な経験もあり「ジュエリーリペア相談会」を開催することにしたわけです。
※といっても店主の私はジュエリー素人ですので周りで見守るのみ。お店の作家さん達ががんばってくれました。
開催してみて驚いた多種多様なご相談
告知が直前になってしまったこともあり、果たしてどれくらい来てくれるのだろうか…閑古鳥もあり得るのでは??と心配していたのですが、実際には想像していた以上のお客様にお越しいただき、途中お待たせしてしまう時もあり申し訳なかったなと反省しています。
持ち込まれたものは本当に多種多様で
・ネットショップで買ったネックレスのチェーンが切れてしまった
・お気に入りのピアスのパーツが外れてしまった
・片方無くしたピアスの石を再利用してリングに作り直したい
・お気に入りのピアスだが、最近アレルギーが出るようになったので、デザインそのまま地金を変えて作り直したい
・数十年かけて買ったりもらったりして集まったネックレスを最近はすっかりアクセサリーをつけなくなってしまったので、一部はストラップなどの日用品に、一部は石だけを取り出して娘たちに譲りたい
・昔お土産で買ったリングが劣化してしまったが、パーツは気に入っているので再利用して違うリングにしたい。
・結婚指輪のデザインが年齢とともに合わなくなってしまいリフォームしたい。
などなど。こちらでも想像していなかったような事情や依頼もあって、アクセサリーを通してそれぞれの人生模様まで見えてくるようでした。
ちなみに結婚指輪のリフォームを相談された方は、最初に「この結婚指輪、切りたいんです」とおっしゃったので、思わず「どういうことですか!?」と詰め寄ってしまいました。実際には、2連のように見える(けど実際には1本の)リングを本当に2連にしたいというご相談で、ご夫婦は円満とのことです(笑)
ご依頼いただいたものは、その場ですぐにお直ししたものもあれば、いったんお預かりして工房へ相談に行くものもありですが、まったく対応できない!というものはなく、ほぼすべてのご依頼になにかしらの回答ができそうでホッとしています。
そして、「できますよ。○○円くらいです。」とお伝えした時の「えっ嬉しい!」「えっそれぐらいでできちゃうんですか!?」「どこに相談したらいいのかわかんなくてずっと悩んでたんですよ」といった声に、あらためてニーズの高さと、対応できる場所がいかに少ないかを実感しました。
ニーズはあっても簡単には開催できないワケ
ニーズの高さは実感できたものの、じゃあまた頻繁に開催すればいい!とはいかないのが辛いところで、他のアクセサリーショップもそういった相談を表立ってやらないのは、おそらく我々と同じ理由があります。
話はちょっと飛びますが、私は社会人なりたての時に住宅リフォームの会社にいたんですね。私自身は技術職ではないので、リフォームに直接携わることはほぼ無く研修とかで聞きかじった程度なのですが、リフォームって一般住宅で工事費が1千万円超えたらわりと大きなプロジェクトなので、新築に比べれば利益も小さくて、グループ会社内でも末端の地味な存在だったりします。ただ現実には、元の家がどんなふうに建てられたのか、その後誰がどんなふうに手を加えたのかも正確にわからないまま設計するのってすごく難しいんです。仕事を受けてから壁や屋根を壊してみたらとんでもないことが起きてた!なんてこともよくある話。さらにどんなに劣化した部材であっても持ち主にとっては思い出の詰まったものだったりもするので、ぞんざいに扱うこともできない。それらの状況に対応するためには専門知識の深い設計者や経験豊富な監理者が必要で、実はゼロベースで設計できて、こちらで全体を把握できる新築のほうがずっとラク!ということをよく聞きました。
アクセサリーも同じで、持ち込まれたものが誰がどんな素材でどうやって作ったのか、見ただけではわからなかったり、どんなに安いものであっても唯一無二となれば作業中に何かあっては…と緊張感を強いられるものです。その上、使う材料がわずかだったりすると大した金額も設定できず、正直言って商売としてワリが合うかと聞かれるとYesとは言い難い。
それでも、次々と持ち込まれる多種多様な依頼に
・どんな素材でどんな方法でつくられているのか判断
・できる/できない
・起きうるリスク
・素材や形状ごとの特徴
・おおよその納期と価格帯
を瞬時に見極め、お客様の要望も聞きながら返答していく対応力は経験豊富な作家さんのスキル、ネットワークがあってのもの。これは産地で幅広い職人さんに接し、多様なケースをこなしてきたからこそ身についたものだと思います。ご本人たちは、自分達で対応しきれるのかと心配していましたが、私の目には鮮やかにさばいていくプロの姿に写りました。
そんなわけで、リペア相談会頻繁に開催します!とも、いつでもwelcomeです!とも言いにくいのですが、対応できた時のお客様の満足度はなにものにも代え難いものですし、こうした活動を通して産地の強さをアピールできたら、長期的には返ってくるものもあるのではないかと思うので、タイミングを伺いながら次回開催を目指したいと思います。