【日記①】聴覚手術

測定値が黄色を指し始めたのでポッドが「筋弛緩法と認知行動療法をやれ。コラム法に基づいて、認知錯誤チェックもするんだ。あと、入眠30分前からブルーライトを見ないようにしろ」と言ってきた。
オレは素直に従うことにした。

鬱病について、技術の発展によって数値という形で提示できるようになったのに、依然として精神医学は薬物療法しか手が打てないことが社会問題になっていた。
「不安」がどうにかこうにか「うつ」を塊という塊として吐き出している事がわかったというのに、医者たちはまだ薬を飲ませるという事後的な対処療法しかできないことに、みんな怒りを覚えていた。

「不安」に対する医療を怠る国家を許すべきじゃないという声はもう抑えられなくなっていた。
困り果てた政府は、カウンセラーの価値を高めることを決めた。最低保証年収を医師と同様、あるいはそれ以上に設定し、公認心理士の受験要件を大幅に緩和する代わりに難易度を飛躍的に向上させることで、他の士業より広く優秀な人材が集まることを目指した。

鬱病という疾患があらゆる分野を数値化したものとして顕在化されるようになった。だから、それを事前に防ぐための処置ができる人間が、ありがたがられるのは自然なことだった。

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