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Best Metal Albums of 2023

 今年は散漫にならないよう、例年の25枚から20枚に厳選。メタル界全体を捉えるだけの意識も視座の高さもないため、今年のトレンドを言い当てるのは難しいですが、個人的に着目していたのは、

・自分のスタイルを高次元な領域で突き詰め切ったアーティストが、次の一手としてどんなアプローチをしてくるか
・ポップミュージックとしてのメタルの中での、新しいポテンシャルを発見できるか
・スタイル的な革新性はなくとも、強引に聴き手を振り向かせるだけの強力な楽曲・演奏(特に歌唱)を堪能できる作品が出てくるか

といったところで、そうした期待に応えてくれた作品・アーティストが上位にランクインという感じになりました。

 また選出にあたって意識した点としては、楽曲におけるフックの強度(リフ、メロディ、展開)、何度も繰り返し聴きたくなるような訴求力・粘着性の高さ。各メディアのベストアルバムを見てみると、Tomb Mold、Cattle Decapitation, Sleep Token、†††など、メタルの境界を拡張するような個性的な試みの作品もいくつかありましたが、狙いの面白さは頭で理解しつつも「繰り返し聴く作品」にはなり得なかったということで、敢えて選外にしました。その結果、戦略先行型の「雰囲気もの」の作品はなく、どれもストレートに楽曲の魅力で勝負出来る作品が揃った気がします。別の言い方をすれば、音楽的チャレンジと親しみ易さのバランスの取れた作品が中心のベストアルバム選出と言えるかもしれません。

まずはトップ10から。

#01  Unprocessed - …And Everything in Between
#02  Code Orange - The Above
#03  hellix - Montage
#04  Godflesh - Purge
#05  Liturgy - 93696
#06  King Gizzard & The Lizard Wizard - PetroDragonic Apocalypse; or, Dawn of Eternal Night: An Annihilation of Planet Earth and the Beginning of Merciless Damnation
#07  Baroness - Stone
#08  Soen - Memorial
#09  Avenged Sevenfold - Life is but a Dream…
#10  Queens of the Stone Age - In Times New Roman…

#01  Unprocessed - …And Everything in Between

 1位は、ドイツのプログレッシブ・メタルコアバンドUnprocessedの5th。Polyphia的な多彩な演奏による音色のバラエティと”Amo”以降のBring Me The Horizon的な超キャッチーな要素を、とんでもない超絶技巧とアレンジ力で両立させた傑作。ポップミュージックとしてのメタルにおける新しいポテンシャルを感じさせてくれたという点で、今年一番の衝撃作。試みの面白さだけでなく、イントロの掴み、サビメロのエモーショナルさ、超絶技巧による想像の遥か上を行く複雑な展開など、各曲の中にフックとなる要素がふんだんに仕掛けられています。これだけの充実作だけに、今年を象徴する作品として、各メディアのベストアルバムでもっと上位に食い込んで来るかと思ってましたが、意外とそうでもなかったですね…。

#02  Code Orange - The Above

 2位は、ペンシルバニアの大人気メタルコアバンドCode Orangeの4th。前作”Aftermath“が凶暴かつ躍動感溢れる大傑作(20年のマイベスト)で、あの路線での究極を突き詰めてしまっただけに、どう次の一手を仕掛けてくるかに注目してましたが、やはり音楽的には大きく変化。前作の音と比較するとスピード感や攻撃性は抑制的で、ヒップホップやデジタルなアレンジを多用Voメロディのキャッチーさも更に強化され、Nuメタル的感覚もあり。楽曲の緩急がつき、聴きやすさは増してますが、音色のバリエーションの多彩さがもたらす刺激は全く持って不変。20sメタルを代表する傑作だと思います。

#03  hellix - Montage

 3位は、日本の金子直樹(ベース、ヴォーカル)のソロプロジェクトhellixによる衝撃の1st。目まぐるしい曲構成+奇っ怪なコード進行+スラッシュ的疾走感はVektor的。ただ良い意味でやり過ぎ感がないため、Vektor以上に耳残り良く、聴き疲れしない音に仕上がっています。初期King Crimson的な知的な展開が多用される一方で、G.I.S.M.的なドスの効いたVoによる爽快感も感じさせてくれるなど、頭デッカチになり過ぎない全体のバランス感が抜群。BandcampかYouTubeでしか聴けませんが、日本にもこんな凄いアーティストがいるってことを、1人でも多くの人に知ってもらいたいと思います。

#04  Godflesh - Purge

 4位は、シューゲイザーメタルJesuでも活躍中のジャスティン・ブロードリック率いるGodfleshの9th。”Pure“の冷酷無比な世界観を現代版にアップデートした傑作。まず持ってジャスティンのギターリフの完成度が只事ではないですね。最早ロック史に残るレベル感。また各プロジェクトでトライしてきたヒップホップやIDM要素が、良い具合に楽曲に表情をつけてます。圧巻の出来映えの作品だけに当然ではあるものの、それでもRolling Stone誌のベストメタルアルバムの第2位に本作がランクインしたことには、正直驚きを禁じ得ません。

#05  Liturgy - 93696

 5位は、ニューヨークの越境メタルバンドLitugyの6th。とにかく圧倒的な密度の濃さ。ブラストと反復リズムによる、現代音楽の緻密な構築感とパンクの激情が融合したような独特のトランス感覚があまりにも素晴らしい。しかも仕掛けの多い知的水準の高い音にも関わらず、直感的快楽が得られるロックとして成立しているのがまた驚異的。作品としてのボリューム感があり過ぎるので、Liturgy入門編としてはお勧めしないですが、かつてDeafheavenやAlcestがメタルの境界を越えて受け入れられたことを考えると、案外一般にもすんなり受け入れられる可能性はあるかも知れません。それだけキャッチーな音には仕上がってます

#06  King Gizzard & The Lizard Wizard - PetroDragonic Apocalypse; or, Dawn of Eternal Night: An Annihilation of Planet Earth and the Beginning of Merciless Damnation

 6位は、オーストラリアのサイケデリックロックバンドKing Gizzard & Wizard Lizardの23th。長年のキャリアの中ではメタル以外の作風も多いようですが、今回は完全なるメタル作品。基調は”…And Justice for All”期のMetallicaを思わせるサウンドプロダクションとスタイル。そのジャスティススタイルから疾走や激しい展開を抽出し、更にストーナーメタル的なグルーヴやサイケデリック感をまぶした、極上のヤサグレサウンドに仕上がっています。メロディはキャッチーで聴き易く、Metallica meets Mastodon的な感覚で様々なメタルファンにも楽しめる作品だと思います。

#07  Baroness - Stone

 7位は、米ジョージアのプログレ/オルタナティブメタルバンドBaronessの6th。従来のメロディアス・スラッジ路線やフォークロック的アプローチに加えて、ニューウェーブ、ジャーマンロック、スポークンワード等、今までとは異なる色彩が混在しているためか、大きな路線変更はないのに変化を感じさせる作品。”Blue”, “Yellow & Green”, “Purple”時代ほどの即効性はないですが、腰を落ち着かせての精聴を推奨したい、非常に奥行きのあるアルバムに仕上がっていると思います。

#08  Soen - Memorial

 8位は、スウェーデンのプログレッシヴ/オルタナティブメタルバンドSoenの6th。ヴォーカルオリエンテッドな方向に一気に踏み込んだ、前作”Imperial”(21年)も素晴らしい出来でしたが、今回も凄い完成度。ギターリフのエッジがより鋭くなり、全体的な印象はかなり攻撃的ですが、圧巻の歌唱力を誇るJoel Ekelöfの歌を主軸にした曲作りの巧みさは不変感動的な歌とメロディが堪能出来る快作なので、正統派HR/HMを好む方にもアピールする作品に仕上がっていると思います。

#09  Avenged Sevenfold - Life is but a Dream…

 9位は、カリフォルニア出身のメタルバンドAvenged Sevenfoldの8th。とにかく攻めてます。プログレというより、アヴァンギャルド。多様な音楽要素が予想外に展開しまくる構成はかつてのMr. Bungle 的(更に深掘りしていくとフランク・ザッパか)。メタル文脈的に賛否分かれるのは当然。とは言え、メロディの親しみ易さもあり、音の印象的にはA7Xらしいヴォーカルメロディ」が堪能出来る、ある意味キャッチーな作品に仕上がっています。なので、かつての名盤”City of Evil”との音楽的連続性も感じられるかと思います。

#10  Queens of the Stone Age - In Times New Roman…

 10位は、カリフォルニアのハードロックバンドQueens of the Stone Ageの8th。普遍的なロックに近づいた前作と比べると、初期のような荒々しいリフが強調され、非常にダイナミックな、ある意味ZEP的とも言えるスケール感あるサウンドに。一方、曲によっては、The Cult的な暗く退廃的な雰囲気も。肉感的で重々しいハードロックでありながら、リズムの妙味を端々で堪能出来るなど、印象は非常にアーティスティック。M5、6、9に顕著ですが、歌い方とかメロディの展開に何となくデヴィッド・ボウイっぽい妖艶さも感じました。

次に11位〜20位。

#11  Twilight Force - At the Heart of Wintervale
#12  Riverside - ID.Entity
#13  Haken - Fauna
#14  Enslaved - Heimdal
#15  Spotlights - Alchemy for the Dead
#16  Orbit Culture - Descent
#17  Endless, Nameless - Living Without
#18  Extreme - Six
#19  Avatar - Dance Devil Dance
#20  Gama Bomb - Bats

#11  Twilight Force - At the Heart of Wintervale

 11位は、スウェーデンのシンフォ・パワーメタルバンドTwilight Forceの4th。メジャーコード主体の大仰なサビメロがテンコ盛りのメロスピ作なんですが、メロディのフックがとにかく強烈。この手の音には関心が薄い自分でも、何度も聴きたくなる心地良さがあります。展開や素材は大仰なのに、音の感触がポップなのが良いですね。琴線に触れるコード進行をしっかりと熟知しており、DragonforceやHelloweenと同等レベルのメロスピ作曲術をマスターした職人集団だと思います。映画音楽のような手の込んだオーケストレーション・アレンジもこの手のバンドの中では、出色の出来ですね。

#12  Riverside - ID.Entity

 12位は、ポーランドのプログレメタル系バンドRiversideの8th。Marillion的な品の良いリリシズム、80年代New Wave的なポップだけど少しひねくれたメロディ、プログレバンドならではのダイナミズム溢れる展開、ポストメタル的なエクスペリメンタルな刺激等、曲によって色んな表情を楽しむことが出来る充実作。メロディのフックが強く、この手のバンドに在りがちな「テクニカルで何となくメロウ」な雰囲気ものになっていないのが良いですね。全体的に開放感のある雰囲気で、過去作と比較して、音に「潔さ」を強く感じます

#13  Haken - Fauna

 13位は、イギリスのプログレメタルバンドHakenの7th。Djentっぽいリフは出てくるものの、重過ぎない音像、マイルドな歌唱、品のあるメロディなど、骨格はモダンメタルではなく、プログレッシブ・ロック的。聴き手を置いてきぼりにしない「聴かせるための配慮」が随所に施されていて、60分9曲と長めの作品ながらも緊張感が最後まで持続します。ひねくれたポップなメロディとダンサンブルなデジタル変拍子リズムの絡みが絶品のM3、Cannibal Corpseにインスパイアされた歌詞とドリーミーで多幸感溢れるコーラスの対比が面白いM7を筆頭に、Dream Theater並みの人気が出ても不思議ではない楽曲の完成度

#14  Enslaved - Heimdal

 14位は、ノルウェーのエクストリームメタルバンドEnslavedの16th。雑多な音楽を貪欲に導入し、それを知性のベールで包みながらも、フィジカルな強さや尖りを備えたエクストリーム・ミュージックとして見事に成立させてます。サイケなメロディ作り、展開の巧みさもあり、非常に没入感溢れるサウンドに。かなり計算して作り込まれたサウンドながら、禍々しさや狂気を未だに保ち続け、ブラックメタル上がりの出自を音からしっかりと感じさせてくれているのも凄い。Opeth, Mastodon, Gojiraが好きな人にも推奨です。

#15  Spotlights - Alchemy for the Dead

 15位は、ペンシルバニア出身のメタルゲイズバンドSpotlightsの4th。本作が初体験ですが、ドゥーム/ストーナーに、ポストメタル、トリップポップ、エレクトロニクスなどの要素が重層的に絡み合った、他にないユニークなサウンド。Massive Attack的なダウナーなトリップホップ感覚に加え、翳りのあるボーカルメロディを軸に、メランコリックかつヘヴィなギターサウンドが絡み合う雰囲気は、初期Radiohead, Smashing Pumpkins, Torche, 90年代のNine Inch Nailsなど優れたグランジ/オルタナティブバンド的フィーリングを感じさせてくれます。

#16  Orbit Culture - Descent

 16位は、スウェーデンのエクストリームメタルバンドOrbit Cultureの4th。Gojiraの獰猛なグルーヴ感、Machine Headの雄々しさと突進力、Soilworkの冷やかなメロディ感覚と空間構築術、In Flamesの叙情的なギターのメロディ展開、Metallicaの漢気溢れるボーカルメロディなど、モダンメタル界の大立物達の特徴を縦横無尽に駆使しながら、決して継ぎ接ぎ感なく1つのドラマ性溢れる楽曲としてまとめ上げる演奏・アレンジ手腕が素晴らしい

#17  Endless, Nameless - Living Without

 17位は、米ジョージアの7人男女編成のマスコア/メタルバンドEndless, Namelessの1st。マスロック経由の躍動感溢れる演奏に、音響系の静的パートやブラックメタル的凶暴なパートも挟み込む、かなり展開の多いエクスペリメンタルなサウンド。ただし、要所で使われるギターフレーズやボーカルメロディがキャッチーかつ心地良く流れていくためか、不思議とガチャガチャした印象を受けません優しさと哀愁と狂気が良い塩梅で同居する非常にユニークな作品。スタイルは違えど、美と狂気の同居という点で、Rolo Tomassiとの共振性を感じます。

#18  Extreme - Six

 18位は、15年振りのアルバムリリースとなるExtremeの6th。キャッチーな良曲満載のハードロック作品。とは言え、陽気で華やかな2nd路線ではなく、全盛期のStone Temple Pilotsを彷彿とさせるポストグランジ以降のソリッドなリフで固められたハード路線。中期ZEP的な実験性が感じられる一方、Night Rangerのような爽やかなアメリカンロック系のメロウな曲が適度に配置され、作品全体のメリハリ感も抜群。MVの作られたソリッドなリフでドライブしていくM1の格好良さがとにかく圧巻。ちゃんと体型をシェイプ出来ているメンバーの出立ちも素晴らしいですね。

#19  Avatar - Dance Devil Dance

 19位は、スウェーデンのメタルバンドAvatarの9th。コープスペイントのフロントマンのキワモノ的キャラもあり、アメリカでも人気のあるバンドですが、サウンド的にはかつてのメロデス要素を幾分残しているものの、かなりサブジャンル横断感のある今の時代のアリーナ系メタル。コンパクトでキャッチーな曲作りが非常に巧く、コーラスを一緒に口ずさみたくなるようなアレンジが施されているので、ライブで凄く盛り上がりそう。立ち位置的にBabymetalとツアーしてたのがよく分かりますね。

#20  Gama Bomb - Bats

 20位は、アイルランドのクロスオーバースラッシュのベテランGama Bombの8th。リバイバルスラッシュ勢の中で群を抜いて作曲能力が高いバンドというのが、以前からの自分の評価でしたが、今回も軽快なリフで疾走するお馴染みのスラッシュ路線だけでなく、正統派メタル的な展開やユーモラスな要素など、色んな仕掛けが用意されていてとにかく楽しい。敢えてバカっぽい音を作り出す、スラッシュ職人達の確かな演奏力と作曲術が存分に味わえます。

 ちなみに最後まで20枚と競っていた作品としては、Overkill, Raven, Kvelertak, TesseracT, Gruzja, Boris & Uniformなど。どれも優れた作品ではありましたが、そのアーティストの作品を相対で見た時のインパクト、また作品全体を通した時の聴き手の集中力を持続させるパワーといった部分で、幾分劣った部分もあり選外にしました。

 最後に、毎年恒例ですが、各アルバムから2曲ずつピックアップしたプレイリストを作りましたので、お楽しみください。


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