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わたしにとってのカタルシスな短編。

【2016年に『シミルボン』(サイト終了)で掲載したエッセイです】

江國香織さんの小説に最初にふれたのは十代中半〜後半の頃、初の短編小説集「つめたいよるに」でした。

自分にとって「はじめまして」の作家さんの小説を読むときは、自分との相性がいいか悪いか、その本の世界観にすっと入り込めるかどうかなどさぐりさぐりなところがあって。まず短編を手にとってみる。そこで面白いと思ったら長編に手を伸ばしてみる。そういう読み方をすることもあります。

「つめたいよるに」を読んだときに感じたのは、あたたかさ、やわらかさ、かわいらしさ、ふしぎさ、せつなさ──簡単な言葉ですが、江國さんの持つふんわりとしているけれど、そのふんわりとした中心に揺るぎない想いがあるというか、そんな世界観に一気に引き込まれて、二十代の私の生活のなかには常に江國さんの本がありました。

そのなかでも最初に読んだ短編のひとつ目の物語「デューク」は、何度読んでも泣いてしまう、心が洗われる短編小説。主人公の“私”が大好きだった犬“デューク”が死んでしまい、その別れを綴ったわずか8ページほどの物語ですが、愛する者を失ったときの喪失感、愛する者をどれほど愛してどれほどかけがえのない存在だったのかというあふれる愛が8ページいっぱいに綴られている。少しファンタジックであることも好きなポイントです。

私自身もずっと犬と暮らしていたこともあり、愛犬との死別をふくめた想い出がよみがえってくるからなおさら泣けてくるというのもありますが(動物と一緒に暮らしている人は間違いなく泣けるはずです)、ややファンタジーになっていることで、犬や動物との別れだけでなく、死別というだけでなく、恋人との別れ、家族との別れ、友人との別れ、さまざまな人との別れ、さまざまな状況での別れに遭遇したときにふと読み返したくなるのです。心を、あたたかく包んでもらいたくなるのです。

涙を流すことで気持ちが整理されることもあります。私にとって「つめたいよるに」の「デューク」は、必ず涙を流させてくれる短編。おそらくこの先も読むたびにあたたかい涙が流れるのだと思います。

読んでいただき、ありがとうございます!♡(スキ)の色がかわってハートの隣に数字がみえると、読み手にちゃんと文章が届いたんだなと嬉しくなります。次は何を書こうかなと励みになります。みなさんの今日の一日にも嬉しいことがありますように!