そろそろ手元に届くころ~師走の夜~
先日 切手を購入するために郵便局へ行った。
味気ない切手ではなくて、かわいい切手を求めて。
前に切手を購入したのがいつだったのか思い出せないほどには、切手を貼って手紙を出す、という行為から遠くかけ離れていた。
郵便局にはよく行く。ATMはもちろん、荷物を送ったり受け取ったり。送るときにちょっとしたメモ程度の短い手紙を入れるけれど、封書ではないから切手は使用しない。
事務的な封書、例えば最近ならふるさと納税のワンストップ申請書のような、そんなときには、近所に遅くまで開いている郵便局があるので、ポストではなくそこへ行く。「○○円です」と言われた金額を支払うと、ペタンとスタンプを押してくれて切手が貼られることはない。普段は味気ない切手すら手にしない生活を送っている。
今回ばかりはスタンプでもなく普通の切手でもなくかわいい切手を、どうしても。
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一年のお礼を伝えたい人がいた。特別に。
年賀状を卒業して随分経つので、最初から年賀状は選択肢にならなかった。例年ならLINEやメールで挨拶がてら感謝を伝えることもあるけれど、今回はそれも除外した。下手でも自分の手書き文字で届けたいから。
初秋の頃、彼女から手紙が届いたときに決めた。クリスマスカードに気持ちをのせようと。
今はホリディカードやグリーティングカードというらしい。そのカード、遠い昔、プレゼントに添えて「メリークリスマス」くらい書いたことはあっても、カードだけを届けたことが、実はない。伝えたいことがあるから、とカードを送ったこともない。効率的に淡白な伝達方法を選ぶ人間ゆえ、初めて選んだ手段に若干の緊張を伴う。
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事前に調べて、これにしようと決めていた切手が なかった。
「ご希望の切手は一昨日 完売したようです」
感じの良い 窓口の女性が申し訳なさそうに言う。郵便窓口が19時までに時短されており仕事帰りに購入できなかったのもあるとはいえ、それを考慮し早めに動かなかった私のせいなのに、彼女は「大変申し訳ありません」と続ける。私も低頭で他の切手を見せてもらう。後ろには人。
こういうとき、人を待たせるのが苦手すぎて気が急いてしまい落ち着いて選べない。脇によけ、お先にどうぞ、と振り返り声をかける。
スマホを見ていた迷彩柄ダウンにスキンヘッドのワカモノは「あ、大丈夫っす。そんな急いでないっす。てか俺も切手買いにきたんで」
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noteや他のSNSでカードを手作りしている人がいて、その発想がまったくなかった自分にがっかりする。カードはかなり早くに購入してしまっていた。
「クリスマスカード」「手作り」で検索すると、マスキングテープやリボンやボタンを使ったりするアイデアがたくさん出ていた。
手作りもデザインを考えたりするところから楽しそうで、しかもオリジナルでいいなあ、と思いつつ、今 目の前にあるカードを眺める。少しメルヘン過ぎただろうかと不安になる。やわらかさのある絵柄と印刷されていた言葉に心がぽっと温かくなるのを感じて選んだ。気に入ってくれるといいな、と相手のことを想う時間も、繋がっているようで愛しい。
その感情のまま、ブルーのペンで、丁寧に、文字を綴っていく。
私は、その時々で字体がコロコロ変わってしまう。上手く書けるときと書けないときがある。大きさも最初と最後で変化したし、満足できる文字にはならなかった。でも、心は込めた。
ヨシ、と封筒の中へ入れて、大丈夫?と出して、見直して、また入れた。やっぱり若干緊張している。
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「こんなに色々あるんすねぇ」切手は結局スキンヘッドのワカモノと一緒に見た。私は絵本の世界シリーズを選び、ワカモノは動物の写真のを選んでいた。
シートで購入したので、その中から一番お気に入りの一枚を真っ赤な封筒にペタリと貼ると、ひと仕事終えた気分になる。なんとなくクリスマスモードが高まって、ツリーを出したくなった。こんな夜中に?と思ったのは一瞬で、飾りつけが簡単な小さな木製のツリーだけ出そうと決めた。
明日も朝早いのに、と思いながらも楽しくて目が冴えていく。
いや、慣れないことをして昂っている。
眠れるように、と自分に必要のない言い訳をしてホットワインをいれ、ツリーとカードに乾杯をした。師走を感じる夜。ふかふか毛布にくるまれて午前1時。消灯。
数日前の出来事。そろそろ手元に届くころ。
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