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「容姿いじり」の果てーファイターズ伊藤大海投手への中傷DM事件。その後の取り上げ方から考える。

 2023年9月10日 エスコンフィールド北海道 ファイターズは目下最下位を争う西武ライオンズと対戦、カード3連敗を喫する。
先発投手は、伊藤大海。2回2/1 73球 9安打3四死球6失点KO。
後続も打たれ、挽回はできず0対10の大敗だった。前カードの楽天戦から加えると5連敗…負け越しは今季最大の18に膨らんだ…。

ネット上のファイターズファンは荒れていた。「宝物」と呼ばれる新庄さん続投派と「アンチ」と呼ばれる辞任要求派で抗争も勃発する状況。
試合後にリリースされた建山投手コーチによる「投手の役割を果たしていない」という厳しいコメントもあり、伊藤投手への風当たりも強かった。

そんな夜半に、x(Twitter)に次々と上がってきたのは、伊藤投手のインスタグラム、ストーリーからの映像だった。
ストーリー機能は、24時間で消える設定になっている。通常の投稿でなく、ストーリーを選んだのは理由はあるのだろう。必要以上に拡散されないとか、その時だけ見てもらいたいとか。
しかし、スクショ(スクリーンショット。カメラ機能で切り取りできる)されると投稿者の意図によらず拡散され、ネット上に居残り続ける。

わたしも引用することは可能なのだが、迷う。論じるには正確さが必要だし、しかし安易に拡散して良いとは思えないし。
中途半端に迷ったまま進みます。

その個人的なアカウントDM(ダイレクトメール)へ送られてきたメッセージには、伊藤投手への罵倒が書かれてあった。プロ野球選手、芸能人へのDMを使った誹謗中傷は、常々報道されているが問題は、その内容である。

障害者が野球をしている ダウン症のような顔をしている、ボールに打たれて引退せよ。障害者という言葉が繰り返され、伊藤投手の存在を否定する意図で、祈る祈ると結ばれる。

ここまで強烈で明白な障害者差別の文言を、例えあらゆる差別と蔑視が溢れるTwitter(x)と言えど、目にすることは滅多にない。だから一般には見えないDMで送ったにしても。その下に伊藤投手は、野球への批判は仕方ないけれど人として言っていいことと悪いことがある、絶対に許しませんと訴えているのは、もっともであり当然なのだけれども。
 同時に彼は、今まで育ててくれた親や指導者も否定するようなことーと書き込んでいる。投稿を見たファンからも「選手に失礼!」「障害者呼ばわり」といったリプ(返信)がどんどん上がってくる。

わたしは、反射的に#lovefighters のタグをつけて、ポストした。

この頃は、滅多にタグはつけないんですが、これは言わないとダメだと思ったんで…だからってほとんど通じてないんですけどね…「死ね」じゃなくて「引退しろ」で間違ってるし…。

速攻でwebスポーツ系も記事をバンバンあげ始めたが、障害蔑視と表記はわずかで巧みに表現を避け、伊藤大海が誹謗中傷されて「絶対に許しません」と言った的なものばかり。
延髄反射的な速度が求められるネット記事では、コンプラを確かめる時間も惜しいのか。余計な面倒は避けたいのか。どちらもなのか。

そしてさらに、翌朝には、新庄剛志監督のこれまた個人アカウントのインスタグラム、ストーリーに投稿。「可愛い選手を誹謗中傷しないで」「言いたいことがあるなら僕に言ってこい」「激怒」と見出しが載る。

ファンの反応は
「さすが新庄さん!かっこいい!」
「選手のことを思う九州男児!」
「こんな監督いません!」
「ついていきます!」

…違う…そうじゃない…そうじゃないんだよおおお…

今朝の日刊スポーツからは、昨夜のデイリーにはあった「障害者蔑視」という表記さえ消されていた。(引用記事を参照ください)
腰を入れて記事にする気は、どの紙面にもないようだった。

なぜ、DMの障害者差別の文言は、無視され、消されるのか。
それは、匿名で、外からは見えないDMに送られる理由ときっと同じだ。

そもそも「健常者の世界」では「存在しない」ことにされている。
存在しない、どこの誰でもない、ただの言葉。
「障害者」は「健常者」より、劣っているもの、かわいそうな、不幸な、あるいは醜い、不具の代名詞。だから人を貶めるために使っても良いことになっている。と、わたしたちは、していないか?

だけど、それって、ものすごく、とても最悪に。酷いことなんだよ。
人を人として存在させないなんて。もしも自分だったら?

障害者って名前の人はいない。
健常者って名前の人もいないように。

誰もが一人の人だとして。
「野球選手も人です」その通りだとして。


今回のDMは、全くファイターズを知らない人が、たまたま悪意のみで行ったと想像するのは難しい。普段から試合を見たり、選手のインスタをフォローしている人物。負けたら悔しいと感じる人物と思える。

そう想定してみると、スクショしたxの投稿にも書いたが、ファイターズファンを取り巻く環境が背景にないとは、言い切れないと、わたしは思った。

 2021年のオフ、監督就任以来、新庄さんによる選手への「容姿いじり」の繰り返しと、何ら否定も訂正もしない、垂れ流しのままの球団の態度は、わたしから見れば、度を越している。乗っかり続けるメディアも同様だ。

ホクロとれば良い、デブじゃなくなれば一軍に上げる、ふわっと見えるから打たれる、髭を生やせば打たれなくなる。
新庄らしいユニークな指導法、育成法、コミュニケーションの新基軸とまでもてはやされている。真に受けるかどうかは別として。

なぜ逆からは、考えてみないのだろうか?
「デブだから打てねえんだよ!この豚!」
という誹謗中傷が出たとして、否定はできないことになる。
だってデブだからダメだって言ったんだから。

「ホクロ取ってみようか?」
これはわかりやすいが、ホクロがあるのがダメ。醜いという意味になる。
しかし、それで組織のトップが言って「笑って受ける」とどうなるのか?
「笑っていいんだな」から「笑った方がいいんですね」になる。
人の顔についていじるのが「笑い」として許容されていく。

「髭を生やしてみましたw」
って、あのね。今でも頭にきて怒髪天ですけど。
他人の顔写真を勝手にインスタにあげて、しかもイタズラに髭を描いて見せびらかす。社会通念上は、この時点で一発アウトなんだよ。
なのに「さすが新庄さん、新しい!」て許容されるんだよ。
トップがやってるならファンだってやりたくなるんじゃないですか…。

つまりさ。
人の顔や容姿を云々して、人のことを好き勝手に言っても良いし、笑い者にしてもいい。あるいは、否定や「苦言」のために使っても良い。さらにそれをネットに流してもOK。
と、日常において許しているのは、新庄さんであり、北海道日本ハムファイターズという球団なのだ。
「そんなつもりはない」と言ったって、実際してるんだから。
よくよく考えて、発言行動していただきたいと、切に願います。

今回のDM犯人の言動と直接は関係はない。でも背景にはあるし、他人の容姿について貶める行為を笑って許す、「いじり」として流す。わたしたちも意識してなくても、実は、常からしていることじゃないだろうか。その線上に「障害者」と一括りにして、それぞれに一個の人たちを、自分より劣ったものとして捉え、中傷して平気な心理もあるはずだ。
踏み越えてはならない境界線は、どこにあるのか。
自分の頭で考えなければならないことだと思う。

が、本来は、正しく報道メディアが、大きな問題として捉え、書くべき出来事であるよ。プンスカ!

今回の事は、選手への誹謗中傷以上に、深刻な差別、人権侵害であり、NPBやコミッショナーが出てきて、野球界全体として声明を出すべきレベルの話です。欧米のサッカーリーグは、速攻で出しますよね。
全ての差別に反対し、断固として許さないと。

選手とファンの関係、最後は、監督と選手の「良い話」に収束させて、矮小化させるのは、間違っている。



















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