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プロローグ 巫女は語り始める

 地球のひとよ、こんにちは。
 私はあなたが暮らす星とはまったく違う世界にある「ラククス神皇國」の巫女です。はい、神に仕えているのです。

 異なる宇宙、異なる次元にあるあなたとわたくしが、時空超えてこうしてつながった小さな奇跡に感謝します。

 きっと、あなたは物理的な世界だけでなく、さらなる高次元の世界に興味があるのでしょう。または、愛についての何かを探しているのかもしれませんね。
 なぜなら、それがわたくしとあなたの縁を結ぶものだから。

 わたくしはこれから、新たな神官や巫女たちに、大切な話をするところです。
よろしければ、一緒に聞いていってください。
 わたくしたち神職者は想念を共有する術を持っているので、一瞬で話は伝わります。けれど、地球にいるあなたには、多少のタイムラインが必要でしょう。つまり、まあまあの時間が必要です。
 あなたのペースで、そして、飛ばしたいところは飛ばしてください。どう受け取ろうと、あなたはあなたにとって大切なことを見つけますから。

 では、始めるとしましょう。

 遠い昔、わたくしたちの世界は生命に有害な光線で満ちていて、人々はその光線を避け、地下に潜って生活していました。その地下も、光線から安全な場所はごくわずかという厳しい環境でした。

 それだけでなく、千年に一度、約三年間にわたる極寒の「冬」がやってきて、人に限らず、この世界の多くの命を残酷に奪い去っていきました。

 積み上げて来たものは、千年ごとにほぼゼロの状態までリセットされてしまう。そんな過酷な環境に、わたくしたちの先祖はなんとか生きていたのです。そして、人々は命を繋いでいく希望を失いかけていました。

 けれども、ある時、この星の生命を救済する存在が現れたのです。
 その存在こそが、わたくしたちが唯一神と崇め敬愛申し上げる、現人神アルハ様でした。

 アルハ様は全身から黄金の光を放ち、その光は近くにいる者も遠くにいる者も同じように温めました。

 それだけでなく、アルハ様はわたくしたち人類に越冬のための「冷凍冬眠」の叡智を授けてくださいました。

 そして冬が明けると、有害光線を避けて暮らすための球状のシェルター都市「領界」を築く技術をも与えてくださったのです。
 これで、人類は地下から地上や空へ居住空間を広げていくことになりました。
 領界の外へは出られませんでしたが、やがてその外「外界」を運行する外界飛行体もアルハ様の導きものも生まれることとなりました。


 とはいえ、アルハ様の教えは、当時の人々にとってはずいぶん難解で、理解できる者たちはごくわずかでした。
 やがて、その者たちは「アルハ様の翻訳者」として、人々を導くようになったのです。
 それが、わたくしたち神の声を聴く者、神殿に属する神職者の起源です。

 わたくしたちはアルハ様とともに、人類だけでなく、この世界の生命に貢献してきたのです。
 けれども、良い翻訳者を得たか得ないかによって、各地の発展には大きな差が生まれることになりました。

 その中で圧倒的な発展を遂げた領界がありました。ラククス大領界とアシリア大領界です。
 どちらも中心にコア領界を持ち、その外側に大小8つの領界を展開建設することに成功しました。

 ふたつの大領界の翻訳者たちは手を取り合い、アルハ様を国主としてラククスアシリア神皇國を建国しました。この時に、わたくしたち神職者も正式に組織化され「神殿」が生まれました。

 ここからしばらく、ラククスアシリア神皇國の黄金時代が続いていました。
 やがて、十分に力をつけたわたくしたちの先祖は、神の教えの届かぬ弱小国や未開地にも、その恩恵を与えるべく動き始めました。
 けれども、その矢先に残念な裏切りが起きたのです。

 アシリア大領界の領主レダが、神の存在を全否定し、アシリアを奪い、独立国家を宣言したのです。

 この裏切りと略奪行為を神殿が許すはずもなく、アシリア大領主レダは叛逆者とされ、その討伐命令が下されました。

 けれども、レダは周到に計画を進めており、この時にはアシリア内の軍事力は既に完全に彼のものだったのです。アシリア内にいた神官や巫女たちは、皆殺しにされてしまいました。

 「見たか! アルハが全治全能なら、どうして俺を止めることができない?! 神などいないのだ! 皆の者、神なぞ信仰するに値しない! 奴は己の神官や巫女さえ、守ることができないではないか! 神ではなく、自身を信じよ! 身近な家族や友を信じよ!」

 レダのこの主張は、信心と実生活とのギャップに翻弄され、折り合いをうまくつけられなかった者たちに、強く支持されることとなりました。

 レダか神殿か、どちらにつくのが利口かと様子を見ていたアシリア内の有力者たちも、この虐殺を機にレダを選びました。
 中には神を信じ続ける者もいましたが、アシリア内に暮らしている以上、もはやレダ側につくしか生き残る道はなかったのです。

 こうして、事実上のアシリア王国が誕生してしまいました。

 当時、神殿の最高位についていた巫女姫エラ様は、忌み名として「アシリア」をはずし、国名を「ラククス神皇國」と改めることを宣言されました。
 そして、国内の叛乱分子やその種を徹底的に排除なさったのです。

 また、「裏切り者レダ」を罰さず、その自由意思を見守る現人神アルハ様の慈愛を人々に説き、人々がこれ以上、レダの戯言に惑わされぬよう注力なさいました。
 そうやって盤石な体制を整えた巫女姫エラ様は「我々の使命は、レダに騙され、神と分断された民衆を救うことだ」と、救済のための戦いを改めて宣言なさったのです。

 こうして「ラククス神皇國」と「アシリア王国」の戦いが正式に始まりました。

 ひとたまりもなかったのは、両国に科学技術において圧倒的な遅れをとっていた近隣諸国でした。
 どちらについても、敵となった側に早々に滅ぼされるのは明らか。そこで彼らは同盟を組み、「永遠の中立」を宣誓して「中立域」を設けたのです。

 レダは自分が虐殺者ではなく「偽神からの正しき独立者」であることを示そうとし、中立域には決して手を出さないことを公式に発表しました。
 巫女姫エラ様もまた「この戦いはあくまで叛逆者レダからアシリア大領界内に囚われ、信仰を奪われた民を救済することにある」として、同様に「中立域」への不可侵を神の名のもとに宣誓なさいました。

 こうして、この世界はアルハ様を絶対神として信仰する「ラククス神皇國」、神を全否定した「アシリア王国」、どちらにもつかない「中立域」の3つに分かたれたのです。

 レダの叛乱から始まった両大国の戦いは、その後、何千年もの時をまたぎ、子々孫々と受け継がれてゆくことになりました。両国の力は常に拮抗しており、戦争はもはや当たり前にある……産業のひとつとして認識されています。

 この争いはいつからか「永年戦争」と呼ばれるようになりました。もはや、この戦争に終わりが来るなど、ほとんどの人間が信じていないのです。

 でも、終わりはやって来ます。
 来なければならないのです。わたくしたちには、アルハ様と民とが交わした約束を成就させる役目があるのですから。

 そして、わたくしたちの祈りは発動し、終戦の鍵となる者が現れました。この神の国に生まれながら、神を信仰しない呪われし「冬の子」です。

 まもなく、あの忌まわしき者が、アシリア王国の4人の英雄と出会おうとしています。この出会いが、わたくしたちラククス神皇國にとって、凶となるか吉となるか。それはまだ決まっていません。

 わたくしたちはただ、この先に展開し得るあらゆる未来を見通し、その中から最も望ましいものを選び取り、力を与え続けるのみ。

 地球のあなた。これはわたくしたちの高次元空間における戦いの物語です。この戦いの結果がどのように物理的な現実となったか。
 その証人となることが、あなたをあなたの真実に導きますように。

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