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クイーンズギャンビット

このドラマは、主人公のエリザベス(ベス)・ハーモンが孤児となって養護施設に送られ、ある日黒板消し叩きを命ぜられ、地下で1人チェスをしていた用務員のシャイベルさんに偶然出会う。シャイベルさんに手ほどきを受けながらチェスの才能を開花させ、その後、ベスは男社会であるチェス競技の世界で成長していく。ウォルター・テヴィスによる1983年の同名の小説を原作としたNetflixオリジナルのミニシリーズドラマ。

1番印象に残っているのは、ベスのこのチェスを始める時の姿。とにかくベスがすてき。キリッとした目やファッション、姿勢がきれいなところに目がいった。

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そのピシッとした目や、スッとした背筋が伸びている感じが、誰にも頼らずに生きている強い印象を受ける。反面、シルエットは折れそうなくらいに細い。

6話完結、どれも1時間ちょっとなので、韓国ドラマを見慣れてる人ならすぐ観終わるかもしれません(笑)

ここからあらすじ&ネタバレありです。



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養護施設を出て養子に入る時、どんどん大きい大会に出て強い相手と対戦する時、彼女に寄りかかれるものはない。そのよるべのなさが、そのスッとした姿勢に現れているような気がした。

いつも気が抜けない、ホッと気を緩めることができない彼女がその頭を鈍らせることができるのが、お酒と孤児院で強制的に飲まされていた精神安定剤だった。いかにも薬を飲むとチェス盤が現れ、チェスの才能がさらに高まるような描かれ方が気になったけれど、最後、ベスは薬を飲むと頭をぼんやりできる…というようなことを話していた。そして最終的には薬を飲むことなしに世界チャンピオンになる。

男ばかりのチェスの世界で一人勝ちしていくさまや、最後、ロシアでの大会に同行した国務省の役人がソ連に勝ってよかっただのという言葉を意に介さず、空港へ向かう車を降りて1人で散歩しながら、チェスをしているおじいさんたちの中に入っていく姿もとても格好よかった。

反面、公園やスーパーなどでカップルや家族連れを見る視線は、まるで主人公から外されたかのように、戸惑った表情をしていた。唯一目が合うのは同じようにお酒ばかり買っている高校時代の同級生。

彼女にはチェスはあるが生活はない。

それがラスト、並木道でおじいさんたちが、ずらっと並んでチェスをしている中に入っていったベスはその場に溶け込んでいる。そして、その中でチェスを始める。同じように肘をついて、大きな目をくりっとさせて。

そこで物語が終わるのがとても印象的だった。

もうひとつ、この物語に見えるのは母と娘の物語だ。彼女と心中しようとした実の母親、養子にもらわれた先で出会った母親、どちらもべスに深く影響している。実の母から言われた言葉を反芻し、養母の着ていたパジャマを羽織って寝るべス。

実の母が死んで養護施設に送られ、養護施設で薬とチェスに出会う。酒で体を壊した養母が死に、同じように酒に溺れていく。

そこにどうしても母娘の依存性を見てしまう。ドラマではべスから見た母が断片的に描かれているけれど、実母と養母の人生はどんなものだっただろうか。

どうにもならなくなった時に支えとなったのは養護施設で一緒に生活したジョリーンであり、彼女にチェスの手ほどきをし、彼女の活躍を報じる新聞を毎回切り抜いて地下室に貼っていたシャイベルさん、チェスで出会った対戦相手たちだった。

みなずっとそこにいたのだが、ベスはそれに気づかない。暗闇の中にいて見えない。それがひとつひとつつながって、気づいていくラスト。薬も酒も母親からも卒業して、自分とチェスとその歩みの中で自ら出会っていった人たちに支えられて、世界チャンピオンになる。その過程で本でしか出会えなかった尊敬するチェスの先達とも一局交えることができる。

自分の歩みから出会った人たちをしっかり感じられるようになった後、べスの世界はいつも別世界のように見ていたカップルや友達、家族と楽しそうに過ごしている風景が自分の風景になり、それがラストの並木道でおじいさんと一局始めるシーンにつながっていく。

これはたぶん王道の成長物語だ。実話ではなく、2020年にNetflixオリジナルシリーズとして公開されたドラマ。いや、こんなことないだろう…。とか、この描写はちょっと…という部分もある。ただ、このドラマを見た女子たち(おばさん含む)は、物語のメッセージや希望を受け取ってくれたらと思う。私も受け取った。

いろいろある。いろんなことが起こるけど、とても身近に自分を気にかけてくれる人はいるってこと。それと、自分から好きになって手を伸ばしたものが、自分を作ってくれること。「好き!」や「やりたい!」には敏感であれ、と思う。

このドラマでベスに敗れ去った人たちもたくさん出てくる。でも、みんなすがすがしい。自分がタイトルをとること、勝ち続けることがチェスの本質じゃない。チェスをやってる人はみんな気づいてる。気づかずにベスにタイトルを要求するのはみんなチェスを知らない人たちだ。

何かの競技を通して成長していく物語はたくさんある。たくさんあってもそれぞれ違って、また別の物語を見たくなる。ものすごく微々たる自分の成長物語の記憶をたどって共感したり励まされたり、それでみんな好んで観るんじゃないかな…と思う。もちろん、私も。観てよかった作品でした。

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