幼少期の私が将棋に興味を持たなかった話

私と将棋の出会いは最悪なものだった。
なんて恋愛小説の書き出しにありそうな一文だが、実際に将棋とのファーストコンタクトの記憶は決していいとは言えないものだった。

話は約20年ほど前に遡る。
大掃除の際、父が将棋盤と駒を見つけ出した。木製の二つ折りの盤と駒は使用感こそあるものの、長年放置していた割には結構きれいだったように思う。
父は早速私と姪を呼び、将棋のルールの説明を始めた。(まさかこのルール説明が後に大問題を引き起こすとはこの時誰も思っていなかっただろう。)
父から駒の動かし方のレクチャーを受けた私と姪は、早速対局を開始した。
とはいっても本当に駒の動ける方向を教わっただけで、何をどう動かすのかといったところまでは説明を受けていなかった。
当時私は小学生で、四歳年下の姪(兄弟とは親子ほど歳が離れているので姪の方が歳が近い)は小学校に上がる前か小学校低学年だったように思う。
子供の四歳差というのは結構大きな差である。いうまでもなく私が一方的に姪をボコボコにする展開になっていた。
だが対局は終わらない。何故なら「何をもってして勝敗が決まるのか」と一番大事なルールを教えられていなかったからだ。
漠然と王様を捕まえるゲームと説明されたかもしれないが、じゃあどうすれば王様を捕まえられるかといった説明はなかった。基本的に説明不足なのである。
ただひたすらなんの目的もなくただ駒を動かし続けるしかない。父よ、あんたなんてことしてくれたんだ……。
流石の父も姪の手助けはするが、的確なアドバイスを寄越すことはしないので余計に状況を引っ掻き回すだけである。いやほんと何がしたかったんだ、父よ。
将棋というゲームがあることは知っていたし、初めて触れる駒や盤といったものに興味を持たなかったわけではない。初めは未知なるものに触れる楽しさを感じてはいたのだ。

私の駒台から駒があふれそうになった頃、衝撃が走った。
ゴッという鈍い音とともに側頭部が痺れるような感覚。数秒遅れてじんわりと痛みが広がっていく。顔をあげればさっきまで笑ってた姪が顔を真っ赤にして泣いてる。右手をしっかり拳に固めて。
そう、殴られたのだ。
小さい頃は自分の感情をうまく言語化して表現できない分、泣いたり怒鳴ったり手を出すという形で表現してしまうこともある。今ならそうやって冷静に考え対処することができるが、当時の私もまた好戦的で血気盛んな子供であった。

盤外戦の結果、勝者は姪となった。

今となっては笑い話ではあるが、そんな経験をしてしまったら将棋に興味を持つなんて難しい話だ。当然、私も姪もその後将棋には目もくれずお互いアラサーを迎えた。
そして三十路の誕生日を迎えて数十か月後、ひょんなことから将棋にハマった。
駒の動かしかたなら知ってる!と息巻いて調べてみたら、歩以外にも金と王将以外は成ることができると初めて知った。だから父よ、何故あの時教えてくれなかったのか……。
もしかしたら父としては少しずつ教えていくつもりだったのかもしれないが、目的がわからなまま何かをするということはとてもしんどい。例えば、この長ったらしくもなんの意味もないノートを読むのもその一種だろう。

私が改めて将棋に興味を持ったきっかけはまた後日書きたいと思う。
幼少期の思い出話にお付き合いいただきありがとうございました。

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