三十路を越えた私が将棋にハマった話

趣味とは突然ハマるものである。

また恋愛小説のような書き出しだが、実際そうなのだから仕方ない。
前回は幼少期に将棋に触れる機会がありながらもハマることがなかったお話をしたので、今回はタイトル通り将棋にハマった話をしたいと思う。


私はバレーボールの観戦が趣味で、それをきっかけにして知り合った人が沢山いる。
バレーボールファンとは言っても皆一年中ずっとバレーのことを考えている訳ではない。
私自身は元々洋画や漫画が好きなガッチガチのインドアオタクだったが、ひょんなことからバレーにハマった。なので試合がない時は漫画を読んだり映画を観たりして過ごしている。
私の知人を例に挙げると、アイドルの追っかけ、洋画オタク、気がついたら国外を旅している人、競馬好きといろんな人がいる。
その中のひとりが時々将棋の話をしていた。
最初は「将棋かぁ……渋い趣味してるなぁ」くらいにしか思っていなかった。
しかし、その方が話される棋士のエピソードはどれも濃く、面白いものばかりだった。
棋士って寡黙でクールな印象があったけどそうでも無いんだな。気がついたら佐々木勇気先生と永瀬拓矢先生の名前を覚えていた。
この時点で棋士には興味があったものの、将棋自体にまで興味が及んでいたかと言えば怪しいところである。
ただ、棋士本人だけに興味を持つってどうなのよ?という思いがあり、せめて何かしら将棋番組を見るなりルールを覚えるくらいはしなくてはと思った。
しかし、なにを見れば、なにを読めば、なにをすればいいのかわからない。(投了すればいいんだよ)
何か初心者でもとっつきやすい番組や動画はないかと探していたところ、件の方がある情報をくださった。


「年末、ニコ生に推しが出るのでよかったら」

そう、永瀬二冠の年末合同訓練である。
迎えた大晦日当日、大掃除を早々に諦めた私はスマホ片手に布団に寝転んでいた。将棋番組なんて見て理解できるのかなという一抹の不安を抱きつつ視聴ボタンを押した。
結果としては初めてまともに触れた将棋番組がこれでよかったと思っている。
対局によって変動していたがだいたい30分以下の持ち時間で先後を入れ替え二局+感想戦を行うというシステムで、合間合間でちょっとした企画も挟まれていた。
この時は駒の動かしかたをようやくちゃんと覚えた頃で、囲いも戦型もなにもなにそれ美味しいの状態だった。なのでもちろん将棋の内容を理解するのは無理だった。
しかしながら対局をしていない先生方の解説やお話が面白く、時間はあっという間に過ぎた。
軽妙なトークが面白かったことは勿論のこと、もう一つ興味深かったことがある。
この企画ではチェスクロックを対局者自身が押すシステムだったのだが、残り時間が少ない終盤に差し掛かると、相手がボタンを押してから指すまでのスパンが短くなってくる。それはさながら餅つきのようであった。
普通の棋戦ならまずお目にかからないだろう、こまたっ…駒たちが躍動した盤面と、くったりとした対局者たち。

将棋ってすごい。

私の中の何かが弾けた。


そこから先の展開は早かった。
気がつけばスマホには将棋関連のアプリがいくつもダウンロードされ、暇さえあれば初心者向けの駒落ちの指しかた解説のページを読んでいた。
それでも足りなければ図書館で子供向けの入門書を借りて読み耽った。
ひと月も経つとぴよ将棋の一番弱いひよこ相手に連勝できるようになっていた。
さらにひと月も経つと振り飛車穴熊を丸焼きにされていた。
勝てると嬉しいし、負けても「いつかお前をやきとりにしてやるからな」と更に勉強しようという気持ちになれた。
同好の士(というのも恐れ多い大先輩)がいるというのもプラス方向に作用しているのだろう。

こうしてかつて姪に盤外戦で負けた女が二十余年の月日を越えて将棋にハマったのだった。



今回も長話にお付き合いいただきありがとうございました。
次は応援している先生方について書きたいです。

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