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虹のおと 1.かけら
1.かけら
そこは<しずくの森>という場所だった。青や青緑や水色のしずくの木々が生えていた。薄紫の霧がたちこめ、色の変わる<ふしぎ沼>があった。むらさきうさぎ、なないろ小人、ちょうちょう鳥、おばけガエル。そういった不思議でちいさな生き物たちが住んでいる森だった。
こども妖精のティナも<しずくの森>に住んでいた。ティナの家は<ふしぎ沼>のすぐ横にある切り株をくりぬいたものだった。ティナはそこにひとりで住んでいた。こども妖精はあさつゆが凍って結晶になるときに、生まれる。そして死ぬまでこどものままなのだった。
ティナの髪は輝く金色で、たいてい後ろでひとつ結びにしていた。目は鮮やかな翡翠色をしていた。妖精といっても、羽の生えていない、ちょこっとだけ魔法の使える小さな女の子だった。
ティナは毎日、家の周りの草花に水をやったり、妖精の服を洗濯したり、頬がとろけるほど美味しいシュガーパイを焼いたりして過ごした。<しずくの森>を散歩したり、友達のホビーの家に遊びに行ったりした。ホビーは吟遊詩人の小人だった。
ホビーの家は、<ふしぎ沼>を超えていったところにあった。そこは<たいこ岩の谷>で、ごつごつしたたいこ岩が沢山あった。たいこ岩はその名の通り、叩くとドンドコ音が鳴る岩だった。
ある日、ティナは寝る前にいつものように切り株の屋根の上にあがって星空を眺めていた。流れ星が毎日とおりすぎるときにウィンクしてくれるのだった。あたたかいミルクを飲みながら星空を眺めるのがティナの楽しみのひとつだった。
ところが今日は、なんだかいつもと違った。ティナはどこかの草むらがキラキラ光ってるのに気がついた。
屋根からおりて、キラキラしている草むらをかき分けていくと、小さな虹のかけらが落ちていた。
「まあ!なんて綺麗なの」
壊れてしまいそうな虹のちいさなかけらを拾い上げると、ティナは手の中でようく見てみた。虹のかけらは、あらゆる色にきらめいていた。赤も青も緑も黄色も、深い色にもなれば鮮やかな色にも見えた。ティナは大事にハンカチで包んで家に持って帰った。
「そうだ、ペンダントにして首から下げよう」
机から麻紐をもってきて、虹のかけらをくるみ、ペンダントに編み上げた。とても魅力的なペンダントになった。それを大事に机の引き出しに入れると、ティナは布団に入ってうきうきしながら眠りにおちた。
次の日、ティナはホビーの家にいくことにした。虹のかけらを見せてあげようと思ったのだ。
ホビーの家はたいこ岩とたいこ岩の隙間にあった。小さな木のドア、小さな呼び鈴、小さな看板には「吟遊詩人のホビー」と書いてある。
ティナはノックもそこそこにドアを開けて入っていった。
「ねえホビー、いる?とても素敵なものがあるのよ」
「やあティナおはよう。素敵なものってなんだい?」
ホビーは栗色の髪で、毛先がくるくるっとはねていた。ゆったりとした綿のシャツとズボンを履いていた。靴は先がくるっと尖ったブーツで、出窓に腰掛けていた。琴をもち、ちょうど朝の詩を奏でていたところだった。
「これを見て」
ティナはペンダントの虹のかけらを渡した。
「これは…まさか虹のかけらかい?すごいじゃないか!とても貴重なものだ!」
ホビーは虹のかけらをみて興奮していた。
「こんな貴重なもの、どこで手にいれたんだい?」
「きのう、寝る前に星空を見ていたら、近くの草むらがみょうに光るので、見に行ったの。そうしたら、落ちていたのを見つけたの」
「綺麗だなぁ。いろんな色に見える・・・でもこれ、どうするんだい?虹を直してあげないと、空が悲しむよ」
「もっていてはダメかしら」
「そうだなぁ、とりあえず長老様に相談に行ったほうがいいと思うよ。これはもともと空のもちものだから」
「そうね。そうするわ。一緒に行く?」
「もちろん!」
こうしてティナとホビーは<とんがり山>の頂上にいる長老に会いに行くことにした。そこまでの道のりは遠かったので、まずは旅支度をそれぞれすることにした。
ティナはお腹が空いた時用のくるみパン、おいしく焼いたビスケット、夢色ポップキャンディと、ハッピーベリーのお酒を少し。ランタンと、小さなナイフ、お花のブランケット。
ホビーは大切な琴、ブリキのコップと木を削って作ったお皿、干し肉、草で編んだカゴとたばねた薬草をいくつか持った。
「楽しみね」
「危ないことに出会わないといいけど」
二人は家を後にして、まず、<しずくの森>を通り抜け、<ふたご山>を目指すことにした。
とんとん とんとん
ふたりであるくよ
ことこと ことこと
足音ふたつ
きらきら きらきら
虹のかけらをもって
とんとん とんとん
ふたご山へ
ホビーの詩に合わせて二人は歩いた。
木々や草花もホビーの音色に合わせて揺れた。楽しげな音に、小鳥たちがついてきた。むらさきうさぎも、何事かとぴょんぴょんついてきた。
とんとん とんとん
みんなであるくよ
ことこと ことこと
足音たくさん
きらきら きらきら
虹のかけらをもって
とんとん とんとん
ふたご山へ
歌いながら歩くと、<しずく森>を抜けるのはあっという間だった。森の生き物たちとは森の終わりでお別れした。ここからさきはふたご山だ。ふたご山はその名の通り、ふたつの高い山のことだった。右の山には真紅の木々が燃え盛んばかりに生い茂っていて、あかやまどんが住んでいた。左の山には濃紺の木々が全てを包むように生い茂っていて、あおやまどんが住んでいた。
その間の谷間では、いつも、木々が喧嘩をしていた。自分たちのほうがかっこいい、自分たちの方が美しい、と喧嘩をしていた。
「どうするの?どっちの山を通る?」
ホビーはティナに問いかけた。どっちの山を通っても苦労するのは見えていた。
「あら、当然、両方通るわ。問題は、どっちの山から行くかってことよ」
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