【勝手におすすめ本⑦】ある「完全な音楽家」の肖像

私の独断と好みで選ぶ音楽書を、勝手に紹介するシリーズの第7回。

今回は、音楽とは何か?演奏するとはどういうことなのか?
音楽教育はどうあるべきか?など、音楽をやっていると必ずぶち当たる問題にたくさんのヒントを与えてくれるこの本です。


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【船山信子 編『ある「完全な音楽家」の肖像 マダム・ピュイグ=ロジェが日本に遺したもの』;音楽之友社(2003)】


楽典と関係ないじゃないか!と言われそうですが、
音楽理論を学ぶ目的についてもたくさん良いことが書いてあるので紹介したいと思います。


「完全な音楽家」とは?

この本は、フランスのピアニスト、オルガニスト、作曲家、音楽教育家であったアンリエット・ピュイグ=ロジェ Henriette Puig-Rojet 先生(1910-1992)に関する本です。
ピュイグ=ロジェ先生は、パリ音楽院のピアノ伴奏科で長く教鞭を執った後、1979年からは拠点を日本に移し、東京芸大を始めとする音大などでソルフェージュ、ピアノなどを教えました。

本の内容は、ピュイグ=ロジェ先生が書かれた日本人に向けた論文、エッセイ、講座の原稿などや、お弟子さんたちからのメッセージなどをまとめたものですが、非常に読みやすいです。(訳がどれも上手なのでしょうか・・訳本ということを忘れて文章がどんどん心に入ってきます。)

以前も書きましたが、私は大学院でソルフェージュを専攻しているので、
日本のソルフェージュ教育の歴史や、現状について詳しく調べる機会がありました。そこでこのピュイグ=ロジェ先生のことを知り、またこの本にも出会いました。

このタイトルにある、「完全な音楽家」とは?。
要するに、ピュイグ=ロジェ先生が「完全な音楽家」ということなのですが、本の中では、この定義を「音楽のすべての面を瑕瑾なく身につけた、総合的な力量を示す音楽家のこと」(前掲書;p303)としています。

具体的に言えば、ピアノが弾けて、オルガンが弾けて、作曲もでき、声楽や楽器のことに精通し、伴奏もし、コレペティもでき、スコアも読め、分析もし、移調も、数字付き低音も、何もかもできる、知っている、
という音楽家です。

これを読んだ時に、私は「こうなりたい、完全な音楽家になりたい!」と強く思いました。
もちろん、この先生ほどにはなれないだろうけど、理想は総合的な能力を持っている音楽教師です。

小さい頃から総合的な音楽の勉強を

「まだ小さいから」
「私は趣味でやっているから」
「音楽家になるつもりはないから」

という理由で、表面的な読譜と楽器の技術しかやらないのは非常にもったいないことだと思います。もっと深い勉強はいくらでもあるのに、こういうのは専門的な勉強だから、と別物に考えてしまう人が多いのではないでしょうか。別にやるのではなく同時進行にしないと、それ以上根性で指を動かしていたところで何にもなりません。

小さい頃から、また大人でやり直したときからでも、総合的能力を持った良い先生に巡り合ってバランス良く導いてもらうのが最良だと思います。
特にこの本では、最初に習う先生が如何に大事であるか、が書かれていました。具体的な指導内容もあり、参考になります。

音楽とは何か

あらゆる芸術の中でも、音楽は聴覚だけが頼りの時間芸術、という特殊なものです。
この本の中にある「音楽とは何か」の論文から、少し引用します。

音楽は、空間における構築物であるが、目に見えないかたちで存在している。そして、均整美と調和ある均衡を聴き手のために再構成する、これが私たち音楽家に与えられた役目なのである。これはきわめて重要なのに、あまり考慮されていない。
(前掲書;p110)

目に見えないものを、楽譜を頼りにして再構築する作業…
このために、分析が必要になってきます。

どんな作品であれ、うまく演奏するためには、出発点に分析が問題となる、つまり分析できるかどうかが問われることになる。先にふれたように、空間にあっても目に見えず触れることのできない、音楽という構築物を再構成するには、まず作品の仕組みを理解できることが必要である。…
(前掲書;p111)

音とリズムを読めば、構築できるようなものでなく、
作品の仕組みを理解できて初めて再構築できるのですね。

こういったことが自力でできるようにしていかなければいけません。
それが、本来の音楽の勉強であり、指導者が怠ってはいけない大事な部分だと思っています。

まとめ

この本は、そういった総合的音楽能力の伸ばし方、勉強の仕方、問題点などが具体的に書いてあるので、読み物としても面白いですが、実用性もある良い本だと思います。

・音楽教育に関わっている方
・ピアノ講師の方(特にピアノに関する事柄はかなり詳しく書いてあります)
・指だけ一生懸命動かしてきた方。楽器のテクニックだけ一生懸命やってきた方
・音大等で専門的に勉強していて、将来の方向に悩んでいる方
・伴奏、アンサンブルピアニスト、コレペティになりたい方

などにオススメです!


・・・

さて、
毎週月曜日に書いてきた、この「楽典やり直し講座」の記事ですが、
なんと今回で丸一年経ちました~!!(^^♪(^^♪

たくさんの方に読んでいただきました。ありがとうございます。
2年目からは、少し頻度は減りますが、また何かしら書きたいと思っています。とりあえず、2週ほどお休みします(^^;

これからもどうぞよろしくお願いします!

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