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大人になる

 ヒットアンドブローというゲームを教えてもらった。
 0~9の数字を一回ずつ使い、決めた桁数の数をオヤが作る。コはその数字を予想し、桁と数字が当たればヒット、数字が当たっても桁が違う場合はブローで、その数がそれぞれオヤから示される。コはヒットとブローの数から、オヤの作った数を当てるゲーム。
 
 学習時間の合間に子どもと一緒に遊べるということで教えてもらったのだが、PCのプログラムで何度か遊んだところ、イヤな仕事の合間に脳を休めるのにちょうどよいことが分かった。このリラックスは何に由来するのか思い巡らせると、予想する数字は自分で好きに組めること、即座に正誤が判ること、ちょっと考えれば解けることが理由かと。私はPCゲームというものにハマれないで生きてきているが、この即レス感は楽しい。

 子どもの数学を見ていた時、わからない問題が出てきて、その解法について私がいろいろとヒントを出すのだけど、うまくそれを子どもが噛み砕けないでいて、ほんの少し苛立ちが見えた。学習を開始してからそれなりに時間が経っていたので「ちょっと休憩をしようか」と声掛けをしたら、その子が急に黙々と計算問題を解き始めた。その計算問題はその子にとって難しいものではなく、その子が解くたびに私が正誤判定をしたのだけどほぼすべて正解、キリの良いところまで解き終わったら、満足した様子でつまずいた問題に戻った。
 あー、この子にとって計算問題を解いて正解することは休憩だったのだな、それを自分で選んで自分で自分の気分を変えたのだな、ということに気づいて感動してしまった。

 私がぼけーっとヒットアンドブローをやることと、この子が計算問題を解くことは似ている。「ちょっと考えれば解ける」と言ったが、たぶん考えるというほどには実は何も考えていない。少し頭と手を動かして「はいはい解けた解けた」という気持ちが自分を元気づけるのだと思う。

 自分で自分の気分を変えると言えば、先日こんなことがあった。

 いつもの約束の時間にその子の部屋に行くと、明らかに機嫌がおかしい。頗る荒れている。学校で何かあったのだろうかと心配していくつか言葉をかけるが、首を振るばかり。
 部屋に入れてくれたし拒絶はされていないので、いつもどおり椅子に座って様子を見ていたら、ベッドからやおら起き上がって机に向かい、猛然と問題集を解き始めた。問題集の初っ端ページで基礎問題だったので、順調に正解している。「よく解けてるね」「ちゃんと解き方身についてるね」等、返事はないが声を掛ける。いつの間にか張りつめていた空気は緩み、いつもの穏やかな調子に戻ってきた。
 あー、勉強という手段で自分の気持ちを整えたのだなあと思うと胸に熱いものがこみ上げてくる。この子は今までもこうやって、自分で自分を立て直しながらやってきたのだなあ。

 自分で乗り越えようとする姿を私は見ていたよ。彼女たちのペンを走らせる横顔は大人びていて、ゆっくり大人になって欲しいと思う。