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【本】春のしらべのスナフキン(『ムーミン谷の仲間たち』より)

「ふうん。そうか、なるほどね」
スナフキンは頭をかきながら言いました。

春のしらべ『ムーミン谷の仲間たち』


 『ムーミン谷の仲間たち』新版を読んでいる。この中には9編の短編が収まっていて、その中の『春のしらべ』について。スナフキンとはい虫のティーティー・ウーのおはなし。

 素敵な春の夜に、ひとり食事をとって創作に没頭しようとしていたスナフキンに、はい虫が近寄ってきて話しかける。はい虫はスナフキンを崇拝していて、小さな体で果敢にも川を渡ってくるのだが、孤独を邪魔されて、掴みかけていた歌のしらべも見失ったスナフキンは、そのはい虫の態度やタイミングの悪さに腹を立ててしまう。

 はい虫がスナフキンのリュックを触る描写が二度あるのだが、その時のスナフキンの苛立ちと、名前をもらったはい虫がいなくなった後のスナフキンの気持ちとその後の諸々が、私がHさんに感じる気持ちと全くおんなじじゃないか!と思って驚いている。

 Hさんは私にとって腐れ縁というか、これも今生の縁だししゃーないか、という感じで付き合っている関係で、決して悪い子じゃないとは心底わかっているが、なんだか私を頻繁に苛立たせる。(距離をとることがし難いので、結局そうなるみたいなところがある)
 例えば先日、すっごく美味しいと思うが季節限定でもう売切れて店頭にないという話をしながら、私があるレモン味のお菓子をあげると、Hさんは同じレモン味なら昔売っていたあっちの方がずっと美味しかったと言いつつ、それをばくばく全部食べ切った。私は「それなら全部食べ切るなよ」と思ってそう言い、あげなきゃよかったと思う。その前には、〇〇(地名)に私が暇で気が向いたら車で乗せていってほしい、電車でも行けるがそれ程でもないとか何とか言ってきたので、私が〇〇に連れて行く気はないと断った。下手に出ているようで私からすると結構図々しいお願いをしてくるところは昔から変わっておらず、断った後で私が罪悪感に苛まれるのも変わっていない。なんだか、書くと本当にばからしく、再度言うが、Hさんは悪い子ではない。わがままという訳でもない。良いところもたくさんある。

 スナフキンが、「いつも愛想よく、というわけはいくまい。そんなの、やってらんないもんな」と思う場面があるのだが、それがまんま「〇〇に連れて行く気はない」と断った私が、電話を切った後に思ったことです。翌日の北を目指す午前中のスナフキン、くるりと向きを変えて逆戻りする午後のスナフキン、どちらの心持ちもものすごく心当たりがあります。

 スナフキンは、引き返し戻ったことで、名前をもらい人生を生き始めたティーティー・ウーと言葉を交わすことが出来た。生きる喜びを熱く語るティーティー・ウーに、「わかるよ、わかるよ、そりゃあ、よかったねえ」とスナフキンが応じる。憧れから、もの悲しさを経て、ひとりきりでいられる大きな喜びに至る春のしらべ、ティーティー・ウーもスナフキンも、そしてムーミントロールも、みんな同じなのだと思う。

この!スナフキン!こりゃやばい!